工事請負契約書のひな形を入手しても、「各欄に何を書けば正しいのか」「金額や支払条件の書き方に決まりはあるのか」と迷う場面は少なくありません。記載が曖昧なまま契約すると、追加費用や引渡しをめぐるトラブルにつながります。 作成の基本は、建設業法が定める16の記載事項を押さえた上で、金額・支払条件・追加変更の取り決めを具体的に書面化することです。
本記事では、国土交通省の標準約款や国税庁の情報を踏まえ、項目別の記入例と注意点を解説します。
工事請負契約書の書き方と記入例
工事請負契約書には建設業法で定められた16の記載事項があります。
ここでは記入済みの契約書見本とあわせて、各項目の書き方をテーマ別に解説します。
- 工事内容・代金・工期の書き方(①〜④)
- 支払条件・検査・引渡しの書き方(⑤⑪⑫)
- 設計変更・不可抗力・価格変動の書き方(⑥〜⑧)
- 損害賠償・契約不適合・紛争解決の書き方(⑨⑩⑬〜⑯)
金額・支払条件と追加変更時の書き方は次章以降でさらに詳しく扱います。
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1. 工事内容・代金・工期の書き方
工事内容・代金・工期の欄には、施工対象と合意した条件を具体的に記載します。工事内容(①)は「○○邸工事一式」ではなく「○○邸外壁塗装工事(東面・南面)」のように施工範囲がわかる名称にし、見積書・図面と紐付けましょう。
請負代金(②)は税込総額と消費税額を区分して記載し、工期(③)は着手日・完成日・引渡し日を分けて明記します。施工しない日や時間帯の定め(④)がある場合は、その内容もあわせて記載してください。
2. 支払条件・検査・引渡しの書き方
支払条件・検査・引渡しは、実施時期と手続きを判断できる表現で記載します。 前金払いや出来高払い(⑤)は、支払時期と方法をあわせて取り決めてください。
検査(⑪)は「完成通知の受領後○日以内に実施する」のように期限と方法を明記し、完成後の代金支払(⑫)は検査日や引渡日など明確な日を起点に期限を定めます。 「完成後に支払う」だけでは支払時期が不明確になるため注意が必要です。
3. 設計変更・不可抗力・価格変動の書き方
設計変更・不可抗力・価格変動は、発生時の対応と費用・工期の調整方法を定める欄です。 設計変更や工事中止(⑥)が生じた場合は、工期変更・代金変更・損害負担の算定方法を記載します。天災など不可抗力(⑦)による損害負担のルールも取り決めておきましょう。
資材価格の変動(⑧)については、変更を認める条件と変更額の算定方法まで記載することが重要です。 「協議する」だけでは根拠が不明確になります。
4. 損害賠償・契約不適合・紛争解決の書き方
損害賠償・契約不適合・紛争解決は、責任が生じる条件と対応手続きを分けて記載します。 第三者への損害賠償(⑨)では負担ルールを明示し、発注者が資材や建設機械を提供する場合(⑩)は内容と管理方法を定めてください。
契約不適合責任(⑬)は対象部分と対応方法、遅延損害金(⑭)は計算方法を明確にします。 紛争解決(⑮)には仲裁や管轄裁判所の指定などを記載し、その他国土交通省令で定める事項(⑯)も漏れなく盛り込みましょう。
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請負代金と支払方法の書き方
請負代金は税込総額と税額をそろえ、支払方法は各回の期限と条件を明確にします。契約書と見積書の金額が一致しているかも確認が必要です。
分割払いの決め方から、契約後に金額を変更する場合の記載例まで見ていきましょう。
- 請負金額と消費税の記載例
- 着手金・中間金・残金の決め方と記載例
- 請負金額を変更する場合の書き方
関連記事:工事見積書の書き方とは?記載項目や内訳、効率化の方法を解説
1. 請負金額と消費税の記載例
請負金額は支払総額を示し、消費税額等を区分して記載します。たとえば「請負代金額11,000,000円(うち消費税額等1,000,000円)」のように、税込総額と税額の両方がわかる書き方が基本です。
税込か税抜かが曖昧な金額欄は、請求時の認識違いにつながるため注意してください。改ざん防止のため「金11,000,000円也」と記載する方法もあります。見積書や内訳書との照合も忘れずに行いましょう。
2. 着手金・中間金・残金の決め方と記載例
分割払いは、施工に必要な資金と工事の進み具合を踏まえて決めます。各回の支払額を合計し、請負代金と一致させる必要があります。支払期限に加えて、振込先や手数料の負担者も明記しましょう。 下請契約では、建設業法上の支払期限などに反しない条件が必要です。
発注者との契約と同じ条件を、そのまま下請契約へ転用しないでください。
- 着手金:施工開始に向けた支払いです。「○円を○年○月○日までに、指定口座への振込で支払います」と記載します。
- 中間金:施工途中の支払いです。「○工程の完了を双方が確認した後、○日以内に○円を指定口座への振込で支払います」と記載します。
- 残金:既払額を差し引いた最終の支払いです。「引渡日から○日以内に、残額○円を指定口座への振込で支払います」と記載します。
3. 請負金額を変更する場合の書き方
請負金額を変更する場合は、当初金額・増減額・変更後の総額を区別して記載します。 たとえば「当初請負代金○円を○円増額し、変更後の請負代金を○円とする」と記載すれば、追加分の精算や既払金との関係が明確になります。
変更後の総額だけでは内訳を確認しにくいため、各金額の税込・税抜の区別と消費税額等もあわせて示しましょう。 増減額の根拠は変更対象の見積書で確認できる状態にしてください。
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追加工事や仕様変更時の書き方
追加工事や仕様変更では、当初契約から変わる範囲を明文化します。現場への口頭指示だけで済ませず、代金と工期への影響を確認して変更契約を取り交わしましょう。
1. 追加工事は着手前に書面で合意する
追加工事は、原則として着手前に内容と代金を合意し、書面を相互に交付します。口頭の指示だけでは、依頼の有無や費用負担について争いが生じるためです。変更契約書や覚書には、当初契約との関係を示しましょう。
覚書は、当事者間で確認した合意内容を残す文書です。見積書への承認で対応する場合も、契約書類全体で法定事項を満たす必要があります。緊急対応では、必要最小限の作業範囲や精算方法を先に確認します。協議内容を記録し、速やかに変更契約を整えてください。
- 当初契約:契約日・工事名・契約番号などで特定します。
- 追加工事:施工する場所・作業内容・仕様を特定します。
- 追加代金:税額と支払条件を含めて記載します。
- 工期:完成日の変更の有無を記載します。
2. 仕様変更は金額と工期もあわせて変更する
仕様変更では、施工内容に加えて代金と工期への影響も確定させます。設備や仕上材の変更は、差額だけでなく取消費用や納期にも影響するためです。 たとえば「別紙仕様書の○項を変更し、請負代金を○円、完成日を○年○月○日に変更する」と記載します
。影響がなければ「請負代金および工期に変更はない」と明記しましょう。改訂した仕様書には日付を付け、旧版との違いを示す必要があります。
3. 工期延長や資材価格変動の条件を明記する
工期延長や資材価格変動の条項は、申出から合意までの手続きを具体化します。「資材価格が上がった場合は増額する」だけでは、対象や計算方法を判断できません。価格の比較に使う資料と算定方法を定め、変更を求める根拠を共有しましょう。
工期延長では、供給不足などの事象が工程に及ぼす影響の確認が必要です。根拠資料を踏まえて延長日数を協議します。
関連記事:【2025年施行】建設業法改正の変更点と企業の対応策を解説
トラブルを防ぐ契約書の書き方
トラブルを防ぐには、以下の3つに注意して契約書を書きましょう。
- 工事範囲を見積書や図面と紐付けて特定する
- 契約不適合責任の期間と対応範囲を確認する
- 最新版の標準請負契約約款を確認する
記入欄が埋まっていても、添付資料との内容が食い違えば合意内容を証明できないため、書類全体の整合性も確認してください。
1. 工事範囲を見積書や図面と紐付けて特定する
工事範囲は、見積書・図面・仕様書を契約書の添付書類として紐付け、施工対象を特定します。「内装工事一式」だけでは施工対象や含まれない作業が曖昧になるため、参照する書類の名称と作成日、図面番号を記載しましょう。
解体や撤去後の処分など見落としやすい作業の扱いも確認が必要です。添付資料が食い違う場合に備え、書類の優先順位も定めてください。
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2. 契約不適合責任の期間と対応範囲を確認する
契約不適合責任は、対応範囲と通知・請求の期限を分けて確認します。民法では、種類や品質の不適合を知ってから原則1年以内の通知が必要です。引渡しから一律1年の保証を意味するわけではありません。
特約に加え、一定期間の経過で権利が消える「消滅時効」も確認しましょう。 新築住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分には、引渡しから10年間の責任が法定されています。法定責任を短縮する特約がないかも点検し、仕上げ・設備・構造など対象部分を区別して確認しましょう。
3. 最新版の標準請負契約約款を確認する
標準請負契約約款は、契約の種類に合う最新版を国土交通省の公開資料で確認します。公共工事用と民間工事用では前提条件が異なり、協力会社との契約にも専用の約款があります。
令和7年12月2日改正版は同月12日から施行されており、令和8年2月25日の正誤表も確認が必要です。無料テンプレートが旧版のまま更新されていないケースもあるため、利用前に改訂状況を必ず確認しましょう。
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工事請負契約書の印紙と締結方法
印紙税の扱いは、紙の契約書を作成する場合と電子契約で締結する場合で異なります。紙では、消費税額の記載方法と原本の作成通数も確認が必要です。契約方法を選ぶ際は、印紙税と締結手続きの両方を確認しましょう。
1. 消費税の記載方法で印紙額が変わる
紙の契約書では、消費税額等の区分記載によって印紙税の判定金額が変わります。 たとえば課税事業者が税込11,000,000円のうち税額1,000,000円と明記すると、判定金額は税抜の10,000,000円となり、軽減措置の対象なら印紙税は5,000円です。
一方、税込総額だけを記載した場合は10,000円になります。 軽減措置は令和9年年3月31日までに作成する対象契約書に適用されます。
2. 電子契約なら収入印紙は不要になる
電子データだけで締結する電子契約には、収入印紙が不要です。印紙税の対象となる文書に電子データは含まれないためです。ただし、PDFを送るだけで建設業法の要件を満たすとは限らず、相手方の承諾と適切な電子署名・タイムスタンプなどの手続きが求められます。
紙の原本を別途作成する場合は、各通について課税対象となる点に注意してください。
関連記事:注文書に収入印紙は必要?電子データの場合の対応なども解説!
工事請負契約書のよくある質問
契約書は、作成者や工事金額にかかわらず、必要な条件を確認して整える必要があります。ひな形を使う場合も、記入だけで完成とは限りません。作成担当者や少額工事の扱い、テンプレートの使い方を確認しましょう。
工事請負契約書は誰が作成するのか
工事請負契約書は、発注者・受注者のどちらが作成しても問題ありません。実務上は受注者がひな形を用意するケースが多いものの、発注者にも内容を確認・修正する権利があります。代理人が署名する場合は権限の確認が必要です。当事者情報に誤りがないか点検し、添付資料もそろえましょう。
少額工事でも契約書は必要なのか
少額工事でも、建設業法に基づく契約内容の書面化と相互交付が必要です。建設業の許可が不要な軽微な工事でも書面化の義務は免除されません。
金額が小さいだけで口約束にせず、工事内容や支払条件を確定しましょう。 必要事項を満たせば、注文書と請書に共通の約款を組み合わせる方法も使えます。
無料テンプレートやひな形はそのまま使えるのか
無料テンプレートやひな形は、案件に合わせて確認・修正して使う必要があります。簡易な書式には必要な条項が不足している場合があるためです。
国土交通省のひな形は無料で入手できますが、契約の種類(民間工事用・協力会社との契約用など)と改訂状況を必ず確認してください。 記入後は本文と約款に矛盾がないか点検してから締結しましょう。
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工事の書類管理・変更管理にはANDPADの活用がおすすめ
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まとめ
工事請負契約書の作成では、施工範囲と契約条件を具体化し、双方の認識をそろえることが大切です。工事内容は見積書・図面と紐付けて特定し、支払条件は金額・期限・方法を明記しましょう。 追加工事や仕様変更は着手前に書面で合意し、紙の契約書では消費税額の記載方法が印紙税に影響するため、金額の書き方と一体で確認してください。約款は令和7年12月改正の最新版を使い、案件に合った条件を整えたうえで、着工前に契約を締結しましょう。
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