工事請負契約書とは、工事にまつわる決まりごとや内容について記された契約書のことです。建設業法で書面の交付が義務付けられており、工事を完成させることと、完成したら報酬を支払うことを約束します。
この記事では、工事請負契約書の記載内容や、目的・役割について解説します。工事請負契約書に関する注意点や印紙代についても解説するので、参考にしてください。
工事請負契約書とは?
工事請負契約書とは、工事の発注をする注文者と工事を受注する受注者(請負人)の両者が、工事の完成や報酬の支払いなどを約束する書面のことです。
工事請負契約書には建設業法が適用されており、工事請負契約への記載が定められている条項や、当事者が担う義務などを細かく記載します。
また、請負契約締結のタイミングは着工前です。なぜなら、国交省のガイドラインにて、「契約書面の交付については、災害時などやむを得ない状況を除き、原則として下請工事が着工される前に行わなければならない」と記載されているためです。
災害のように特殊な事情がある場合についての対応は、個別の判断とされているため、迷ったら許可行政庁に相談しましょう。
参考:発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第5版)
工事請負契約書の記載内容
工事請負契約書にはさまざまな内容が記載され、なかには法律で記載が義務付けられているものもあります。具体的な種類や内容については、下記の通りです。
法定記載事項
建設業法第19条第1項により、工事請負契約書への記載が義務付けられている内容は、下記の項目です。
- 工事の内容
- 請負代金額
- 工事の着手、完成の時期
- 工事を行わない日時など
- 請負代金の前払金についての支払時期や方法
- 工事の延期や中止の際の損害賠償
- 災害や不可抗力などによる工期の変更、損害賠償の負担
- 価格等の変更に基づく請負代金又は工事内容の変更
- 第三者に対する損害賠償
- 注文者が資材の提供や機械を貸与する場合の定め
- 工事の検査の時期及び方法
- 工事完成後の代金支払時期や方法
- 工事の保証保険や工事不適合の際の措置
- 債務不履行などにおける違約金など
- 紛争の解決方法
- その他記載すべき省令
法定記載事項以外で記載すべき事項
法律で義務付けられている記載事項ではありませんが、記載するべき事項もいくつかあります。いずれも特定の条件を満たす場合、建設業法により記載の必要性が生じるためです。
- 現場請負代理人の選定
- 一括下請負の定め
現場請負代理人の選定は、工事請負業者の代わりに責任者となり現場全体の管理を行ってもらう人を用意する場合に、注文者に書面で通知することです。
一括下請負の定めとは、請負人が建設工事の一切を下請事業者へ委託することを指します。原則として一括下請負は禁止されていますが、下請負をする際は両者の同意と、下請業者の内容の記載が必要です。
工事請負契約書の目的や役割
工事請負契約書の目的や役割は多岐に渡ります。ここからは、工事請負契約書の目的や役割について詳しく解説するので、参考にしてください。
工事の内容や仕様を明確にする
工事請負契約書を作成する大きな目的は、工事の内容や仕様を明確にすることです。1つの建物だとしても、使用する建材や防火性能・耐震性能の水準など、工事の内容や仕様は多岐に渡ります。そのため、工事に関する注文者と請負人の認識を一致させなければなりません。
工事請負契約書で定められた内容は、完成品のクオリティや性能が契約内容とズレておらず、両者ともに認識が一致していることの判断基準となります。そのため、明確かつ詳細に規定するべきです。
トラブルを早期解決するため
トラブルを早期解決するのも、工事請負契約書の目的や役割として挙げられます。各種建材や材料などは物価の高騰、納期は天候や資材不足など建設工事は不確定な要素が多く、避けられないトラブルもあります。
当初と内容を変更することはトラブルに発展しやすいため、あらかじめ両者の認識を合致させておき、トラブルが起きても早期解決を目指せるようにします。
訴訟などの際に証拠資料とする
工事請負契約書の目的や役割として、訴訟などの際に証拠資料とすることが挙げられます。工事請負契約書は法律で作成が義務付けられている書類であり、注文者と請負人の間で訴訟に発展した場合でも、合意内容を証明する証拠として用いられます。
さらに、注文者と請負人の間で合意した内容をすべて明記していれば、それらを根拠や判断基準として紛争の解決につなげることが可能です。
工事請負契約書に関する注意点
工事請負契約書にはいくつかの注意点があります。下記で具体的な注意点について詳しく解説するので、工事請負契約書を作成する前に確認してください。
作成しないと罰則がある
工事請負契約書に関する注意点の1つに、作成しないことによる罰則が挙げられます。工事請負契約において、契約書の作成や取り交わしは任意ではなく、建設業法第19条によって義務付けられているからです。
具体的な契約書を作成しなかった場合の罰則として挙げられるのが、国土交通大臣や都道府県知事からの指導・監督処分です。
また、違反の規模や程度、悪質性などによっては、さらに重たい処分が下されてしまい、工事や業務の進行が滞る事態に陥りかねません。さらには、行政処分を受けたことによって、会社の信用やイメージの低下にもつながります。
現場代理人を置く旨を通知する
現場代理人を置く旨を通知することも、工事請負契約書に関する注意点として挙げられます。建設工事の実施にあたり、工事を管理する担当者として現場代理人を置くケースは珍しくありません。
工事現場に現場代理人を置く場合、請負人は以下の情報を注文者に書面で通知する必要があります。
- 現場代理人の権限に関する事項
- 現場代理員の行為についての、注文者の請負人に対する意見の申出の方法
見積もりは詳細に書く
工事請負契約書に記載する見積もりは、詳細に書きましょう。互いの認識にズレが生じて後々トラブルに発展しないためにも、工程ごとに必要な日数、それら準備に必要な日数なども含めて、内訳を明確にしておくべきです。
また、建材の種類や工程といった作業的な面や、材料費や労務費といった事務的な面でも、見積もりは複雑になりやすいため、見やすさを意識することも大切です。
請負金額は原価割れに注意
請負金額が、原価割れを起こさないように注意しましょう。注文者と請負人はその立場や関係上、注文者が取引上で優位になる傾向があります。そのため、注文者が請負人に対する優位な地位を不当に利用するのを防ぐためにも、請負金額が原価割れを起こさないようにすることが重要です。
適切な工期を設定する
適切な工期を設定するのも、工事請負契約書に関する重要な点です。とくにゼネコンのような親事業者は、下請事業者の立場や力関係などを背景に、不適切な工期で下請事業者と工事請負契約を強要してしまう場合があります。
このような背景から、建設業法19条第5項により、一般的に必要とされる期間よりも著しく短い期間を工期と定めることは、固く禁止されています。
一括下請負は原則行えない
工事請負契約書に関する注意点として、一括下請負は原則行えないことが挙げられます。一括下請負とは、請負人である建設業者が注文者から受注した建設工事を、さらに下請事業者に丸投げすることを指します。
ただし、多くの人が利用する予定の施設や共同住宅の新築工事を除き、注文者の承諾さえ得られれば一括下請負は可能です。
工事請負契約書に必要な印紙について
工事請負契約書に必要な印紙について解説します。印紙に関する注意点や、契約金額ごとに必要な印紙の額についても記載しているので、参考にしてください。
適切に印紙を貼らないと罰則がある
契約書に印紙を貼らなかったり、貼った印紙が適切ではなかったりした場合は、罰則があります。具体的には、納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、つまり印紙税額の3倍に相当する過怠税を徴収されます。
また、貼った印紙に消印がなかった場合も、印紙税額相当額の過怠税が課されるため、消印の処理を忘れないようにしましょう。
印紙税額
契約金額ごとに必要な印紙税額は下記の通りです。
記載された契約金額 | 税額 |
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超える | 60万円 |
契約金額の記載がない | 200円 |
電子契約の場合は印紙の貼付が不要
電子契約の場合は、記載されている契約金額の大小に関わらず印紙の貼付は必要ありません。印紙税法で課税対象となっているのは紙の文書のみであり、電子文書は対象外として扱われるためです。
電子契約は、印紙代を節約できるだけでなく、印紙を貼り付け忘れるなどのミスも防止できるなど、紙の契約書を作成するよりもメリットが多いといえます。
まとめ
工事請負契約書には決まりごとや注意するべき部分が多く存在します。適切に対応しないと罰則トラブルの原因にもなりかねません。紙で工事請負契約書を作成するのに、膨大なリソースを割いているという企業も多いのではないでしょうか?
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※本記事は2023年11月15日時点の法律に基づき執筆しております。