建設業における労務費とは、工事施工に実際に従事する人に支払われるお金のことです。この記事では、建設業における労務費について詳しく知りたい人に向けて、労務費とは何か、人件費との違いや内訳、工事原価の4つの要素および労務費管理が重要な理由について解説します。
あわせて、労務費率の概要や労務費の計算方法、労務費管理に使えるツールについても解説します。ぜひ参考にしてください。
建設業における「労務費」の概要
建設業において労務費とは、工事施工に携わる職人に支払うお金を指し、工賃とも呼ばれます。労務費に含まれるものは、職人に支払う賃金や手当、福利厚生費などです。なお、労務費は、直接労務費と間接労務費の2種類に分けられます。以下では、それぞれの特徴を解説します。
直接労務費とは
直接労務費は、建設現場や工事現場で働く職人に直接支払う、給与を指します。直接労務費は、直接雇用している職人に支払う「賃金」と、パートタイム労働者をはじめとした、短期の労働契約で雇用されている臨時作業員に支払う「雑給」が該当します。なお、複数の建設現場で職人が作業する場合、現場間の移動時間は「直接労務費」ではなく「間接労務費」が該当するため、注意が必要です。
間接労務費とは
間接労務費は、労務費の中で、直接労務費に当たらないものすべてです。間接労務費の例は、以下のとおりです。
賞与
有給手当
休業手当
育児休暇手当
法定福利費
退職給付金
機械のメンテナンスや修理、運搬など、間接作業にかかる賃金
研修や教育費用
関連記事:法定福利費の計算方法は?仕訳方法、注意点についても徹底解説
建設業の「労務費」と「人件費」の違い
建設業において「労務費」と「人件費」は、関係性が深いです。ここでは、労務費と人件費の関係、労務費の代表例について解説します。
労務費は人件費の一部
労務費は、建設現場で直接働く職人に支払うお金のことで、人件費の一部です。建設業における人件費は、建設現場の職人だけでなく、現場代理人、事務職員、販売職員など、すべての従業員に対してかかる経費の総称を指します。
建設業における労務費の内訳
労務費に含まれる代表的なものには、賃金・雑給・賞与・法定福利費・退職給付金があります。それぞれの概要は、以下のとおりです。
賃金:作業や労働の対価として、作業員に支払う報酬を指す言葉
雑給:パートや季節作業員、日雇い労働者などに支払う報酬
賞与:給与とは別に支払われる一時金のことで、「期末手当」「夏季手当」のほか、家賃補助や通勤手当なども含まれるのが特徴
法定福利費:健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などのうち、雇用主の負担分
退職給付金:従業員が退職する際に支払われるお金のことで、確定給付企業年金や厚生年金基金なども該当
建設業の「工事原価」を構成する4つの要素
労務費は、建設業における「工事原価」を構成する1つです。ここでは、「工事原価」を構成する4つの要素について解説します。
関連記事:建設業の工事原価管理とは|利益率を高める原価管理システムの選定ポイントも解説
建設現場の作業員に支払う「労務費」
労務費は、建設業の「工事原価」を構成する1つ目の要素です。労務費には、先述したとおり建設現場で働く職人に支払う賃金・雑給、手当などが含まれます。
工事で使う材料の仕入れにかかる「材料費」
材料費とは、材木、セメント、鉄筋、ガラスなど工事で使う材料の仕入れにかかる費用を指します。材料のほか、工事で使う機械や工具なども含まれます。材料費には、直接材料費と間接材料費があり、特定の工事で使われた材料は直接材料費です。複数の現場で使用する場合は、間接材料費となります。
他社に工事を依頼する際にかかる「外注費」
建設業では、工事を外注するケースも多く見られます。その際に、依頼した会社にかかる費用が、外注費です。ただし、自社で材料費を負担して工事のみを委託するケースや、人員不足での応援要請にかかった費用などは、労務外注費に該当します。
上記にあてはまらない「経費」
工事原価4つ目の「経費」は、「労務費」「材料費」「外注費」に含まれない費用、すべてを指します。経費の例は、以下のとおりです。
光熱費
通信費
重機の使用やレンタル料
警備費用
保険料
設計費
建設業で労務費管理が重要視されている理由
建設業においては、労務費管理が強く求められています。その理由を、4つの観点から解説します。
長時間労働の防止・労働環境の改善
労務費管理が重要視される理由の1つは、建設業界の長時間労働を是正するためです。建設業界の長時間労働は、解決すべき問題です。労務費管理により、労働時間や作業工程を可視化することで、長時間労働を改善する糸口を見つけられると考えられています。
なお、適切な人員配置、労働時間の設定は、従業員や作業員のストレス軽減にもつながるため、モチベーション向上の効果も期待されています。
改正労働基準法への対応
改正労働基準法へ対応する目的においても、労務費管理は重要です。2019年4月施行の「改正労働基準法」で、時間外労働の上限が設定されました。建設業においては、5年間の猶予が与えられていたものの、2024年4月から他業種と同じく、規制対象となっています。なお、「改正労働基準法」の具体的な規制内容は以下のとおりです。
時間外労働は「1年で720時間以内」
時間外労働と休日労働の合計が「1か月100時間未満」
時間外労働と休⽇労働の合計について、「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」がすべて「1か⽉当たり80時間以内」
一定期間における延長時間は、「1か月45時間」「1年360時間」
原則である月45時間の時間外労働を超えられるのは、「1年で6か月まで」
正確な見積書の作成
労務費管理は、正確な見積書を作成するためにも重要視されています。正確な見積書の作成は、完成工事高との誤差を減らし、利益率を担保するために必要です。労務費管理を適切に実施することで、過去のデータをもとに見積書の作成ができます。そのため、精度が上がり、完成工事高との大きな隔たりを減らせます。
健全な経営体制の構築
建設業では、工事原価の大部分を労務費が占めている傾向にあります。労務費をしっかり管理し、必要に応じて労働条件を見直したり、業務に適した人材配置をすることで、労務費の削減になり、費用対効果の向上が見込めます。これらの施策を図ることにより、健全な経営体制の構築につながるでしょう。
建設業で労災保険料算定に使用する「労務費率」とは
建設業では、労災保険料算定に「労務費率」が使われます。労務費率とは、請負金額に対して労務費が占める割合のことです。建設業では、請負労働者が多く、賃金総額を正確に把握することが難しいため、一般企業とは異なる計算式で「労務費率」を求めます。
労務費率は、「賃金総額(請負金額×労務費率)×労災保険料率」の計算式で求めます。なお、厚生労働省が定める労働比率の数値例は、以下のとおりです。
水力発電施設、ずい道等新設事業19%
道路新設事業19%
舗装工事業17%
建築事業23%
一般企業で労災保険料を算出する方法は「賃金総額×労災保険料率」です。
参考:令和6年度の労災保険率について(令和6年度から変更されます)|厚生労働省
建設業における労務費の計算方法
建設費において、労務費はどのように計算すればよいのでしょうか。直接労務費、間接労務費の2つに分けて計算式を解説します。
直接労務費の計算方法
労務費のうち、現場で働く人に直接支払う直接労務費は、以下の計算式で求めます。なお、賃率は、賃金÷作業時間で算出します。
直接労務費=賃率×施工時間 |
間接労務費の計算方法
間接労務費は、直接労務費にあたらない労務費すべてを指します。間接労務費を求める計算式は、以下のとおりです。
間接労務費=労務費-直接労務費 |
建設業で労務費管理を効率化する方法
改正労働基準法により、建設業も時間外労働の上限が決められました。労働環境の是正のためにも、労務費管理は効率的に行うことが求められます。以下では、管理方法を2つに分けて解説します。
Excel(エクセル)で管理する
Excel(エクセル)は、労務費管理に頻繁に使われています。パソコンにあらかじめプリインストールされているケースが多いため、ソフトをインストールしたりダウンロードしたりする手間がなく、ソフトを購入するといった導入コストもかかりません。
Excelは、関数やマクロを使うことで、計算を効率化できます。しかし、手動で入力する部分もあるため、人的ミスが起こる恐れがある点に注意が必要です。
建設業向けの専用ツールを使用する
建設業向けの専用ツールを使い、労務費を計算する方法もあります。建設業向けの専用ツールを利用すれば、勤怠管理、工数管理なども正確にでき、一元管理が可能なため、効率化が見込めるでしょう。
建設業では、労務費率や原価率など、複雑な計算が必要になったり、複数の現場に携わるため計算が煩雑になったりするケースが考えられます。専用ツールを使うことで、業務フローに合わせて管理が可能です。ただし、導入や運用にコストがかかる点は注意が必要です。
まとめ
建設業の労務費は、職人に払うお金のことで、直接払う賃金や福利厚生費などが含まれます。労務費を管理することで、労働環境の改善や利益率の向上、経営の健全性確保などにつながります。労務費は、計算が煩雑であるため、ツールを利用しましょう。
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