法定福利費は、企業が従業員の公的保障のために支払う費用で、建設業においては見積書に必ず記載しなければなりません。この記事では、法定福利費の種類や見積書への記載方法、計算方法などについて解説します。建設業で法定福利費見積書を作成する際に、お役立てください。
見積書の法定福利費とは?
法定福利費とは、企業が従業員の公的保障を確保するために、義務として支払う保険料などを指します。法律で定められているため、企業が加入の有無や金額を自由に決めることはできません。以下で、法定福利費と福利厚生費の違い、法定福利費の見積書への記載が義務づけられている理由について解説します。
法定福利費と福利厚生費の違い
福利厚生費は「法定福利費」と「法定外福利費」に分けられます。法定福利費とは、企業に負担が義務づけられている費用です。一方、法定外福利費は、企業が任意で提供するものです。例えば、通勤手当や社員旅行の補助、人間ドックの補助、新年会費用などが、法定外福利費に該当します。
法定福利費を見積書に記載する義務がある理由
建設業の協力会社が元請業者に見積書を提出する際は、法定福利費を内訳として記載する必要があります。「工事請負料」としてまとめて記載すると、正式な見積書として認められません。工事費や労務費と分けて、詳しく記載しましょう。
また、記載する法定福利費は、事業主の負担分に限られます。それ以外の費用を含める場合は、内容を明確に記載し、該当する金額を労務費から差し引かなければなりません。
法定福利費の対象になる保険の種類
法定福利費の対象になる保険の種類は、主に6つあります。ここでは、それぞれの特徴について解説します。
1. 健康保険料
健康保険料は、病気やけがの際に医療費の自己負担を軽減する制度です。保険料は「協会けんぽ(全国健康保険協会)」「健康保険組合」など、事業者が加入する保険者によって異なります。
協会けんぽの保険料率は都道府県ごとに決まっており、健康保険組合は独自に保険料率を決めています。保険料は、従業員と企業が半分ずつ負担します。
2. 厚生年金保険料
厚生年金保険は、企業に勤務する人が加入する公的年金制度で、適用事業所に勤務する70歳未満の全ての従業員に加入義務があります。加入者は、原則65歳から生涯にわたって、年金を受け取れます。
また、従業員が障害を負った場合には「障害年金」が支給され、死亡した場合には家族に「遺族年金」が支給されるため、家族も含めた長期的な保障が受けられます。
3. 介護保険料
介護保険料は、介護サービスを受ける人を支援するための保険制度です。65歳以上は第1号被保険者、40~64歳は第2号被保険者として、介護保険料が課されます。40~64歳の健康保険加入者は、健康保険料と併せて介護保険料を支払い、保険料は従業員と企業で折半します。保険料率は加入する医療保険によって異なります。
4. 雇用保険料
雇用保険料は、失業や育児休業、介護休業時に生活支援をするための保険です。主な給付として「失業給付」や「育児休業給付」があり、雇用の継続や生活の安定を支援します。また、求職者支援や職業訓練にも活用されるなど、従業員が働き続けるために重要な制度です。保険料は従業員の賃金総額を基に算出されて、企業と従業員で負担します。
5. 労災保険料
労災保険料は、業務中や通勤中に発生した傷病に対して保険給付を行う制度です。被災した労働者や遺族に対する社会復帰のサポートも提供します。保険料は事業主が負担します。雇用形態に関わらず、従業員を1人でも雇っている事業者には加入義務があり、正社員、パート、アルバイトも対象です。
6. 子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、国や地方自治体による子育て支援サービス提供のために、企業が負担する費用です。厚生年金に加入している全ての従業員が対象で、子どもの有無は問いません。拠出金額は従業員の給与に基づいて算出されて、企業が全額を負担します。
法定福利費を記載した見積書の作成手順
法定福利費を含む見積書は、以下の手順で作成します。
1. 労務費を算出する
はじめに、労務費を算出しましょう。工事に必要な労働者の人数とその賃金を基に計算します。各工事に必要な工数や労働時間を踏まえ、適切な賃金を算出します。
2. 法定福利費を算出する
次に、労務費から法定福利費を計算しましょう。労務費に対して、法定社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など)の保険料率を乗じて、法定福利費を計算します。保険料率は、適用される社会保険の種類によって異なるため、正確な割合を用いて計算します。
3. 見積書に法定福利費を記載する
最後に、見積書に法定福利費を記入しましょう。計算した法定福利費の内訳を見積書に明記し、その合計額を工事の総額に加算します。
法定福利費を記載した見積書の記載例
建設会社が工事を請け負う際の見積書には、法定福利費を明記しなければなりません。以下に、見積書における法定福利費の記載例を示します。
見積書内訳の記載例
項目 | 数量 | 歩掛 | 単価 | 金額 |
A工事費 | 材料費 | A円 | ||
労務費 | B円 | |||
経費 (法定福利費を除く) | C円 | |||
小計 | D円 (A円+B円+C円) | |||
法定福利費 | 詳細は以下に記載 | E円 | ||
小計 | D円+E円 |
法定福利費詳細
法定福利費事業主負担額 | 対象金額 | 料率 | 金額 |
雇用保険料 | B円 | a | B×a円 |
健康保険料 | B円 | b | B×b円 |
介護保険料 | B円 | c | B×c円 |
厚生年金保険料 (子ども・子育て拠出金含む) | B円 | d | B×d円 |
合計 | B円 | e | E円(B×e円) |
なお、見積書では「A工事費」のなかの「労務費」に法定福利費を含めず、別途「法定福利費」として記載します。
法定福利費の計算方法
法定福利費を計算する方法を、2つのステップに分けて解説します。
労務費を計算する
はじめに、労務費を計算します。労務費とは建設業の人件費で、工事ごとに計算が必要です。計算方法は、1日あたりの賃金と必要人数を掛け合わせます。例えば、賃金が1万5,000円で人数が10人の場合、労務費は「1万5,000円×10人=15万円」となります。
法定福利費を計算する
労務費を計算することで、法定福利費も算出できます。法定福利費は、保険料率と労務費を掛け合わせて求めます。労使折半の場合、企業が負担するのは保険料の50%です。各保険料の計算式は、以下のとおりです。
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率×50%
厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率×50%
介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率×50%
雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率×負担割合
労災保険料=賃金総額×労災保険料率
子ども・子育て拠出金=標準報酬月額×子ども・子育て拠出金率
実際の保険料率や拠出金率は、年度や加入している保険組合によって異なります。
建設業における見積書作成時の注意点
建設業における見積書作成の注意点について解説します。
発注をする会社の注意点
発注時には、必ず見積書をもらいましょう。その際に「法定福利費を明記した見積書」を依頼してください。見積書が届いたら、金額が正確かつ妥当であるかを確認しましょう。発注する会社は、法定福利費や協力会社の労務費、材料費などを、一方的に減額してはなりません。
発注を受けた会社の注意点
発注を受けた会社は、見積書を作成する際には、法定福利費を明示する必要があります。「請負額」として法定福利費、材料費、労務費などをまとめて記載してはなりません。また、法定福利費の計算には、各保険の「法定保険料率」を使用し、正確かつ妥当な金額で見積書を提出しましょう。
まとめ
法定福利費は企業が負担する法定保険料で、建設業の見積書に記載しなければなりません。健康保険や厚生年金など、6種類の保険料を労務費に加算し、正確に計算した上で見積書に明示することが求められます。
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