建設業の残業規制は2024年4月から本格適用され、36協定の特別条項でも年間上限720時間、単月100時間未満が原則です。
しかし、「給料が減る」「現実的に無理」と対策に悩む企業も多いでしょう。
本記事では厚生労働省が定める現在の上限規制や違反した際の罰則内容、適用された今だからこそ対策すべきポイントまで解説します。
法改正による罰則リスクを回避しつつ、残業削減と生産性向上を両立して、従業員や現場監督、協力会社が「この会社を選んで良かった」と感じる、働きやすい現場を実現しましょう。
建設業の残業規制とは

建設業の残業規制は猶予期間が終了し、2024年4月から本格適用されています。労働環境の改善と健康確保を目的としたこの法改正は、企業にとってコンプライアンス上の重要課題のひとつです。
規制の全体像を理解するために、まずは以下の内容を確認しましょう。
- 時間外労働の上限時間
- 特別条項付き36協定の内容
- 罰則の有無と違反時の対応
時間外労働の上限時間
建設業における時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」と定められています。
これは働き方改革関連法の施行に伴い、長時間労働の是正が法的義務となったためです。これまで建設業は業務の特殊性から適用に猶予期間が設けられていましたが、2024年4月1日をもってその期間が終了しました。
これにより、現在は他業種と同様の厳しい基準で労務管理を行う必要があります。
基本の上限規制は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合、36協定の締結と届出が必須です。協定を結んだ場合であっても、原則の上限である月45時間、年360時間を超えて働かせることは、法律で禁止されています。
ただし例外として、臨時的な特別の事情がある場合に限り、この上限を超えて労働させることが可能です。その場合でも時間外労働は、年720時間が上限となります。
複数の現場や事業場に従事する社員の場合、時間外労働時間はすべて合算して管理する必要があります。たとえば、午前はA現場で2時間、午後はB現場で3時間の残業をした場合、その日の残業は合計5時間として計算しなければなりません。
上記の上限時間や例外を踏まえた上で、まずは自社の36協定が最新の法令に適合しているかを確認しましょう。そして原則の月45時間以内に収める業務計画を立てることが、コンプライアンスと社員の健康を守るための第一歩です。
特別条項付き36協定の内容
業務量の増加やトラブル対応など、やむを得ない理由で原則の上限(月45時間・年360時間)を超える必要がある場合、「特別条項付き36協定」を締結できます。
特別条項は、繁忙期だけ一時的に上限を超えることを認める例外規定です。この例外措置を適用した場合でも、年間720時間以内という上限は超えてはいけません。
特別条項を適用した場合の、具体的な規制は以下の通りです。
| 項目 | 規制内容 |
| 年間の時間外労働 | 720時間以内 |
| 月間の労働時間 | 時間外労働+休日労働で100時間未満 |
| 複数月の平均 | 2~6ヶ月の平均で80時間以内 |
| 45時間超の回数 | 年6回まで |
特別条項を有効にするためには、「何回まで」「どのような理由で」適用できるのかを協定書に明確に記載し、その運用を現場で厳密に守ることが求められます。原則として年6回までしか適用できないため、無計画な適用は認められません。
罰則の有無と違反時の対応
上限規制に違反した場合、企業や責任者に対して、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
残業規制は単なる行政指導の目安や努力義務ではなく、労働基準法にもとづく罰則付きの強制規定です。法違反は刑事罰の対象となるだけでなく、企業の社会的信用を失墜させる重大なリスクを伴います。
| 法的なペナルティ | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
| 企業へのリスク | ・労働基準監督署による是正勧告・企業名公表 ・公共工事の入札参加資格(経営事項審査)への悪影響 ・ブラック企業としての風評被害 ・若手人材の採用難、既存社員の離職増 |
とくに、書類上は守っているが現場が守れていない状況、いわゆるサービス残業が常態化しているケースは、労働基準監督署の指導対象となります。
罰則回避のためには、PCログやICカードなどによる勤怠記録の正確性と、運用ルールの定着が不可欠です。
上限時間に近づいた時点でアラートが出る仕組みを構築するなど、意図しない法令違反を未然に防ぐ体制を整えましょう。
建設業で残業規制が進みにくい理由

建設業界において残業削減が難航している背景には、以下のような理由が考えられます。
- 人手不足
- 工期圧迫
- アナログな業務習慣
団塊世代が後期高齢者となり、労働人口が減少するためにおこる、人材不足の深刻化「2025年問題」により、建設業でも現場ひとり当たりの業務負荷が増大しています。そのため、人を増やして残業を減らすことが難しく、特定のベテランに業務が集中する属人化も長時間労働の原因となっています。
さらに、週休2日を考慮しないタイトな工期設定が依然として横行しており、現場は土曜出勤や残業で帳尻を合わせざるを得ません。また、多重下請構造の中で、工期やコストのしわ寄せが末端の協力会社に集中しやすい構造的な問題もあります。
また建設業は、アナログな業務習慣がまだ根強くあるため、日々の現場管理に加え、帰社してからの膨大な書類作成(日報、写真整理など)や紙ベースの管理が残業時間を圧迫している状況です。
これらの構造的な課題を解決するためには、単なる精神論ではなく、ICT導入による生産性向上や、発注者との適正な工期設定の交渉が不可欠となります。
建設業の残業規制を経て見えた現場の5つの課題
2024年4月の規制本格適用以降、建設現場では労働時間の適正化を巡って、具体的な課題が顕在化しています。
法を遵守しつつ、現場を円滑に回していくために乗り越えるべき、以下の5つの課題をみていきましょう。
- 残業代減少による収入への影響
- 現場ごとの対応格差が拡大
- 工期・人員調整の負荷が増大
- 協力会社の確保競争が激化
- 管理職の負担・疲労が増加
1.残業代減少による収入への影響
労働時間の上限規制は、これまで残業代や日当を主たる収入源としていた技能者にとって、実質的な収入減に直結する深刻な問題です。
建設業界では、働いた日数に応じて給与が決まる日給月給制を採用しているケースもまだまだ多く、規制によって残業時間が減るため、給与の減少がダイレクトに生活を圧迫します。
従来は残業代が当たり前であり、雨天中止の分を日曜出勤や残業で取り戻すという働き方が一般的でした。しかし、規制により柔軟な調整が困難になっています。
若手職人からは「手取りが減るなら、さらに楽に稼げる仕事に転職したい」という声も聞かれ、規制を守る優良企業ほど、稼ぎたい人材を逃すジレンマに陥る可能性があるのです。
ゆえに単に残業時間を削るだけでなく、月給制への移行や単価アップ、そして生産性向上によって原資を確保し、従業員に還元する仕組みづくりが急務といえるでしょう。
2.現場ごとの対応格差が拡大
大手ゼネコンの現場と、地方の中小規模現場との間で、規制対応への投資や実行力に大きな格差が生まれています。
資本力のある大手企業は、入場ゲートでのログ管理やICT建機、専任の労務スタッフを配置することで厳格な管理を実現しています。一方、中小現場にはそのためのIT投資や人員を割く余裕がないのが現実です。
ある現場では顔認証システムで分単位の管理が行われている一方で、別の現場では依然として手書きの出勤簿が使われ、管理が形骸化しているケースも少なくありません。
また協力会社は、元請の管理レベルによって対応を変えざるを得ず、現場ごとのルールの違いに疲弊してしまいます。この結果、職人や協力会社が働きやすい現場を選ぶ動きが強まり、そうでない現場は施工体制の維持が難しくなるという課題が生じています。
この格差を解消するためには、安価に導入できるクラウド勤怠システムの活用や、元請企業による協力会社へのICT支援など、全体での底上げを図る取り組みが不可欠です。
3.工期・人員調整の負荷が増大
残業規制によって、「工期は必ず守れ、しかし残業はするな」という矛盾した要求が現場の管理層に集中しています。これにより、現場の工程調整は極めて複雑化しているのです。
1人当たりの労働時間が制限される分、同じ工期で終わらせるには人員を増やすか、工期を延ばすしかありません。しかし、人手不足の中で増員は難しく、発注者の理解が得られない限り工期延長も認められにくいのが現状です。
また天候不順で作業が遅れた際、以前なら突貫工事で挽回できましたが、現在は月45時間・年360時間の上限が壁となり、挽回策が限られます。
その結果、工期や人員の調整力が現場や管理層に集中し、工期終盤に無理が生じ、書類上の辻褄合わせやサービス残業が発生するリスクが高まっています。
そのため、着工前に、天候不良などで工程がズレることを見越した適正工期で契約すること、および発注者に対して週休2日を前提とした工程表を提示し、合意形成を図ることが重要です。
4.協力会社の確保競争が激化
労働時間の上限規制により、ひとり当たりの稼働時間が減るため、現場を回すために必要な職人の総数が増加し、労働力の奪い合いが起きています。
これまで1人の職人が月60時間残業してこなしていた作業量を維持するには、残業を規制する分、新たな人員を投入しなければ計算が合いません。しかし、労働力供給は減少の一途をたどっています。
週休2日を完全実施している現場とそうでない現場があれば、職人は働きやすい現場を選別するようになります。そのため、協力会社を確保できず、受注自体を見送らざるを得ない人手不足倒産のリスクも高まっているのです。
協力会社から選ばれる現場になるために、休憩所の整備やICTによる作業負荷軽減など、労働環境の魅力を高める投資が必須といえるでしょう。
5.管理職の負担・疲労が増加
働き方改革のしわ寄せが、現場代理人や施工管理者に集中し、管理職の長時間労働やメンタル不調が深刻な課題となっています。
なぜなら、職人や部下の残業時間を管理や抑制するために、管理職自身が段取りや調整、書類作成や安全管理といった業務に残業せざるを得ない構造があるからです。
その結果、部下は定時で帰し、自分は夜遅くまで日報整理と翌日の段取りを行うという自己犠牲的な働き方が常態化している状況です。
管理業務のアウトソーシングや、施工管理アプリによる事務作業の自動化を徹底し、管理職を作業から解放することが、持続可能な経営のためには求められるでしょう。
残業規制に対応するための建設現場の見直しポイント

ここでは、規制を遵守しながらも現場の生産性と従業員満足度を維持させるための、具体的な見直しポイントをご紹介します。
単に残業を禁止するだけでは現場は回りません。制度や運用、ツールの3方向からアプローチし、抜本的な改革が必要です。
主に、以下の内容をチェックしてみましょう。
- 基本給や手当の見直し
- 週休2日制の導入を段階的に進める
- 労働時間を可視化する仕組みを整える
- 工程と工期の妥当性を定期的に見直す
- 事務処理と情報共有をデジタル化する
- 協力会社と共通ルールで運用する
- 人材確保と育成を同時に進める
1.基本給や手当の見直し
残業規制により残業代が減る社員の収入を補うため、基本給や技能手当を再設計する必要があります。
残業時間の削減を進める上でもっとも懸念されるのが、従業員の「手取り収入の減少」です。
建設業界では、残業代や休日出勤手当を生活費の一部として見込んでいるケースが少なくありません。規制によって収入が減れば、モチベーションの低下や離職に直結する恐れがあります。
そのため、労働時間が減っても一定の収入を確保できるような給与体系への見直しが急務です。具体的には、以下のような施策が考えられます。
| 施策 | 内容と効果 |
| 基本給/手当の増額 | 資格手当や役職手当を手厚くし、 ベースアップを図ることで、収入の安定化を達成 |
| 生産性手当の導入 | 生産性向上で浮いた経費を、 決算賞与やインセンティブなどで従業員に還元する仕組みを設ける |
| 月額制への移行 | 日給制の職人に対し、 天候や工期に左右されにくい月給制への移行を提案し、収入の安定を図る |
まずは現状の給与における残業代の比率を把握し、削減分をどのように補填・再配分するか、労使でしっかりと話し合う場を設けることが重要です。
2.週休2日制の導入を段階的に進める
労働時間の適正化には、休日を確保することがもっとも効果的です。
多くの現場で完全週休2日制(4週8休)の実現は依然として難しいのが実情です。
そこで隔週休や月2回休など、現場の実情に合わせて徐々に休日の日数を増やしていくことで、現場の体制を整えながら、従業員の休息時間を確保していけるでしょう。
ただし休日を確保するためには、現場内での努力だけでは限界があります。
発注者に対し、週休2日を前提とした工期調整を依頼し、工程を再設計することが欠かせません。休日を明確に設定することで、作業の集中化を防ぎ、計画的な施工を実現することが目標です。
3.労働時間を可視化する仕組みを整える
残業時間を削減するためには、まず現状を正確に把握する必要があります。
自己申告や紙の出勤簿では、実際の労働時間との乖離(サービス残業)が生まれやすいリスクがあります。そのため客観的な記録にもとづく勤怠管理システムを導入し、リアルタイムで労働時間を把握し、共有できる環境を整えることが不可欠といえるでしょう。
近年では、顔認証やICカード、建設キャリアアップシステム(CCUS)と連動した入退場管理システムなど、建設現場に特化した便利なツールが登場しています。
打刻方法を統一し、移動時間や待機時間の扱いをルール化することで、見えない労働をなくすことができます。また、上限時間に近づいた時点で自動でアラートが届く設定にしておくと、法令違反を未然に防げるでしょう。
4.工程と工期の妥当性を定期的に見直す
着工前の計画だけでなく、施工中も常に進捗と残業時間の相関をモニタリングし、無理が生じる前に工程や人員配置を見直すサイクルを確立することが大切です。
建設現場は不確定要素が多く、当初の計画通りに進まないことが多いです。遅れを取り戻すための安易な残業や突貫工事は、規制違反や労働災害のリスクを劇的に高めます。
現場ごとにムリのある工期を見える化し、調整する習慣をつくりましょう。
月次の工程会議では進捗状況だけでなく、チームの残業時間推移もセットで報告や検討する議題に加え、残業と進捗のバランスを常にチェックします。
もし遅れが発生した際は、精神論でカバーするのではなく、発注者への工期延長協議など、論理的かつ具体的な対策を講じることが重要です。
5.事務処理と情報共有をデジタル化する
事務作業=残業の主因であることを認識し、徹底したデジタル化で労働時間を短縮しましょう。
日中は現場作業に追われ、夕方以降に紙やExcel、LINEやメールが混在した情報をもとに、日報や写真整理を行うことが長時間残業の大きな原因となっています。
とくに同じ情報を複数のツールに二重入力する手間は、無駄な残業時間を生み出している原因となるでしょう。
日報や写真、図面や工程をクラウドで一元管理することが、この問題を解決できます。
たとえば、クラウド型建設プロジェクト管理サービスを導入すれば、現場でスマホから写真撮影と同時に台帳作成が完了したり、日報が自動で工程表に反映されたりする仕組みが実現します。
これにより、帰社後の残業時間を大幅に削減し、現場監督の直行直帰を可能にすることで、生産性を向上させられるでしょう。
6.協力会社と共通ルールで運用する
元請企業だけでなく、協力会社を含めた全体で共通のルールとシステムを運用することで、現場全体の効率化を達成します。
建設現場は多重下請構造で成り立っており、各社がバラバラの方法で日報や出面管理を行っていると、元請側の集計作業に膨大な手間がかかり、正確な労働時間把握が難しくなります。
この課題を解決するには、連絡手段や提出書類、進捗共有方法を「現場単位で統一」しましょう。
たとえば、建設キャリアアップシステム(CCUS)や施工管理アプリを協力会社の職長にも活用してもらい、図面の共有や連絡調整をデジタル上で完結させます。
導入にあたっては、協力会社に対しシステム利用料の負担を軽減したり、操作講習会を実施したりするなど、導入障壁を下げる支援を行い、現場一体となって効率化に取り組む体制を整えることが、成功の鍵となります。
7.人材確保と育成を同時に進める
働きやすさは「採用・定着・協力会社確保」に直結します。
労働時間を削減しつつ現場を円滑に回すためには、人材の質と量を同時に確保する戦略が必要です。
熟練工の引退が加速する中、従来の職場内訓練では育成に時間がかかりすぎます。また、単一の作業しかできない職人が多いと、工程の変動によって手待ち時間が発生し、非効率です。
そのため、作業手順や安全確認のポイントをまとめた「動画マニュアル」を整備し、スマホでいつでも確認できるようにすることで、教育時間を大幅に短縮できます。
そしてひとりの職人が複数の工程を担当できる多能工を育成することで、繁忙期の業務負荷を分散させられるでしょう。
ウェアラブルカメラを用いた遠隔臨場システムを活用し、ベテランが事務所や本社から複数の若手現場監督を指導やサポートする体制をつくることも有効です。
8.多様な人材が働きやすい環境を整える
女性や高齢者、外国人労働者など、多様な人々を受け入れる体制づくりは、人材不足の解消と企業ブランド向上につながります。
「きつい・汚い・危険」という旧来の現場環境のままでは、新たな人材が入ってこず、慢性的な人手不足による長時間労働から抜け出せません。
快適トイレ(洋式、水洗、男女別)や更衣室、シャワー室の設置を標準化し、熱中症対策として空調服の支給や休憩所のエアコン完備を進めましょう。
またハラスメント防止規定の策定や相談窓口の設置、メンタルヘルスチェックの定期実施など、心理的安全性の確保が重要です。外国人技能実習生向けには、多言語対応の安全標識や翻訳アプリの導入も効果的です。
働きやすい環境づくりはコストではなく、選ばれる企業になるための投資と捉え、現場の声を反映した改善を継続的に行いましょう。
建設業の残業規制に役立つ国の支援策
残業規制への対応に取り組む建設企業をバックアップするための、国の支援制度や助成金について、紹介します。
現場の負担を減らし、法令遵守を進めるためには、公的なサポートを賢く活用することが重要です。
国の主な支援策は以下の通りです。
- 働き方改革の推進を後押しする国の支援プログラム
- 勤怠管理や業務効率化ツール導入に使える助成金
- 無料で相談できる公的窓口や情報提供サービス
次で詳しくみていきましょう。
働き方改革の推進を後押しする国の支援プログラム
個別の企業努力だけでは解決が難しい課題に対し、国土交通省や厚生労働省は業界全体のインフラとして、さまざまな支援プログラムを提供しています。
| 支援プログラム | 所管 | 目的と概要 |
建設キャリアアップシステム (CCUS) | 国土交通省 | 技能者の資格や就業履歴をデジタルで記録し、 能力に応じた適正な賃金支払いを可能にするための 業界共通プラットフォーム |
| i-Construction | 国土交通省 | ICTなどの技術導入を推進し、 生産性向上と、 いわゆる3K(きつい・危険・汚い)からの脱却を目指す取り組み |
| 週休2日工事の推進 | 国土交通省 | 公共工事において、 受注者が週休2日(4週8休)を確保できるよう、 休日確保を前提とした工期設定や、 経費(労務費・機械経費など)の補正を行う制度 |
| 働き方改革推進支援助成金 | 厚生労働省 | 生産性を高めながら残業上限を設定するなど、 労働時間短縮や年休取得促進に取り組む中小企業への支援制度 |
まずは自社が未登録であればCCUSへの登録を行い、国の施策に乗ることで、将来的な公共工事の入札や人材確保において、有利なポジションを確立できます。
勤怠管理や業務効率化ツール導入に使える助成金
システム導入や就業規則の変更にかかるコストを軽減するために、国が用意している助成金の活用は、法令順守に則ったコスト削減が可能です。
中小企業にとって、ICT投資や労務管理システムの導入は大きな負担ですが、助成金を使えば費用の1/2〜3/4程度をカバーできる可能性があります。
主な助成金制度には以下のようなものがあります。
| 助成金名 | 主な対象となる経費や取り組み | 所管 |
| IT導入補助金 | 勤怠管理ソフト、施工管理アプリ、 会計ソフトなど、 ITツールの導入費および利用料の一部補助 | 経済産業省(中小企業庁) |
| 働き方改革推進支援助成金 | 労務管理用機器(勤怠システムなど)の導入、 就業規則の変更、人材確保の取り組みなど、 労働時間短縮のためのコンサルティング費用 | 厚生労働省 |
| 業務改善助成金 | 事業場内の最低賃金引上げと、生産性向上のための 設備投資(PCやPOSレジ等も含む)の費用を補助 | 厚生労働省 |
「資金がないからシステムを入れられない」と諦める前に、自社の課題(残業削減、賃上げ、DX)に合致する助成金がないか、確認してみましょう。
無料で相談できる公的窓口や情報提供サービス
自社だけで解決策が見つからない場合は、公的窓口を利用し、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを無料で受ける方法があります。
法改正の内容は複雑であり、自社の就業規則や36協定が最新の法令に正しく適合しているかを判断するのは容易ではありません。
公的機関であれば、専門家が中立的な立場から、費用をかけずに具体的な改善案を提示してくれます。
| 窓口名 | 主な相談内容と専門家 |
| 働き方改革推進支援センター | 就業規則の作成指導、36協定の書き方、 助成金の活用提案など(社労士などが担当) |
| よろず支援拠点 | 経営全般の悩み、 IT活用の専門家によるデジタル化推進の相談 |
| 産業保健総合支援センター | メンタルヘルス対策や長時間労働対策、 健康管理に関する相談 |
ひとりで悩み込んで時間を浪費するよりも、まずは無料相談を予約し、第三者の視点を入れて「自社が今やるべきこと」を整理することが、迅速な残業規制対応への第一歩となります。
残業削減と生産性を両立させるにはデジタル活用がおすすめ
人手不足が深刻化する建設現場において、「労働時間を減らしながら成果を維持・向上させる」ための現実的な解決策がデジタルツールの活用です。
書類作成や電話での調整、訪問での打ち合わせ等を減らし、管理職の負担を軽減することで、属人化した管理から仕組化された運営への転換を実現できます。
デジタル活用には主に、以下のメリットがあります。
- 現場と事務所の情報を一元管理する
- 図面・日報・工程の共有をリアルタイム化する
次で詳しくみていきましょう。
現場と事務所の情報を一元管理する
建設現場における業務効率化は、現場と事務所で情報が分断されている状況を解消し、クラウドシステム等で情報を一元管理するのが有効です。
建設業における長時間労働の要因のひとつは、現場監督が事務所でしかできない仕事を抱えていることにあります。
情報が一箇所に集約されていれば、場所を問わず業務が可能になり、直行直帰や隙間時間の活用が可能です。
具体的な導入効果を比較すると以下のようになります。
| 業務内容 | 従来のアナログ管理 | クラウド管理導入後 |
| 写真整理 | デジカメ撮影→帰社後にPC取込、振り分け | スマホ撮影→自動で台帳振り分け・報告書作成 |
| 工程確認 | 事務所のホワイトボードやPCでのみ確認可能 | 全員がスマホから常に最新状況を確認可能 |
| 書類作成 | 手書きやExcelで作成し、メール等でやり取り | 現場でアプリ入力し、自動で必要な書類を作成 |
事務所に戻るという移動時間をなくすだけで、1日あたり1〜2時間の残業削減効果が見込めます。まずは写真管理や日報といった、毎日発生する身近な業務からクラウドによる一元管理をはじめましょう。
図面・日報・工程の共有をリアルタイム化する
紙ベースでの情報伝達を廃止し、図面や指示事項をリアルタイムに共有することで、手戻りや待機時間という現場の二大ロスを削減できます。
なぜなら建設現場では、設計変更や追加指示が頻繁に発生しますが、紙の図面では差し替えにタイムラグが生じ、古い図面で施工してしまうミスが起きやすいためです。また、職人が監督の指示待ちで待機する時間は、現場全体の生産性を著しく低下させます。
一方、デジタルツールを活用すれば、図面や日報、工程変更をリアルタイムに確認できるようになり、判断が早くなります。
具体的には、以下の効果が期待できるでしょう。
- 変更図面をクラウドにアップロードすることで、職長のタブレットへ通知が届き、誤った施工を未然に防止できる
- チャットツールを活用して、現場の不具合箇所を写真付きで共有と指示出しを行えば、是正までのリードタイムを大幅に短縮可能である
- 日報を音声入力でリアルタイムに記録し、翌朝の朝礼を待たずに進捗状況を共有することで、翌日の段取りもスムーズになる
施工管理アプリやビジネスチャットツールを導入し、関係者全員が「今、正しい情報」にアクセスできる環境を整えることが、残業削減と生産性向上を両立させるための鍵となります。
図面の電子化やビジネスチャットや施工管理アプリを活用した、リモートでの現場管理については、以下の記事でも紹介しています。
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リモートでも現場管理はできる?方法やメリット・デメリットまで解説
建設業における残業削減の成功事例
ここでは、実際にデジタルツールを活用し、残業削減と生産性向上を達成した建設企業の具体的な事例をご紹介します。
デジタルツールの導入を検討している方は、実際の成功事例をご覧になり、自社での導入後の参考にしてください。
佐藤工業株式会社|請求査定DXで経理業務を月50 時間削減
佐藤工業株式会社は、栃木県にある、土木や舗装工事を中心に行っている建設会社です。
同企業は、請求書に関する一連の業務を「紙」で行っていました。しかし約300枚にのぼる請求書が毎月20日までに郵送で届き、現場ごとへの振り分けや経理担当者の入力に時間がかかるため、多くの時間がかかる状態でした。
しかしその時間がもったいないと感じたことで、請求書業務のDXを決意し、ANDPAD請求管理を導入し、結果、月平均約50時間削減という成果を達成しています。
このツールの導入により、パソコンでいつでもどこでも請求内容をチェックできるようになったため、現場監督も事務所と現場の行き来がなくなり、本来の業務に集中できるようになりました。
このように、請求書業務をデジタル化するだけで、経理担当者も現場監督も業務効率化が図れ、結果残業削減につながるのです。
参考:請求査定DXで社内が良好に。経理業務を月50 時間削減、監督の移動ゼロ、査定が半日で完了
株式会社トーテック|デジタル化で残業時間削減と業務効率化を両立
架空配電工事をメイン業務に内線工事や電気通信工事まで幅広い業務を手掛ける、株式会社トーテックは、案件の多さから日々の人員配置に時間がかかるのが課題でした。
しかし施工管理業務全般にわたるデジタル化を推進することで、現場監督の長時間労働を解決し、業務効率化を両立させました。
ANDPADボードとANDPAD図面を導入し、図面や工事写真、工程表などをリアルタイムで共有できるようにしました。これにより、手戻りや確認作業が大幅に削減されています。
また、現場監督が現場から直接情報入力できるようにした結果、事務所に戻って事務作業をする必要がなくなり、直行直帰が可能になりました。この取り組みの結果、現場監督の月平均残業時間が大幅に削減され、全社でデジタルツールの運用ルールを統一したことで、業務の標準化と品質安定にも貢献しています。
まとめ
建設業への残業規制適用は、現場の負担を増やし、単に時間を削るためだけの措置ではありません。これは、業界全体が持続可能な企業へと進化するための重要な転換点と捉えるべきです。
法遵守のために無理やり残業時間を削るのではなく、まずはデジタル活用による業務効率化と、労働時間の正確な可視化から着手しましょう。現場と事務所の情報を一元管理することで、現場監督の移動時間や事務作業を削減し、生産性を維持することが可能です。
さらに、労働時間の削減に伴う実質賃金の低下を防ぐために、給与体系や手当の見直しは不可欠です。また、発注者と連携した適正な工期設定に取り組むことで、無理のない工程管理を実現できます。これらの取り組みは、結果的に優秀な人材確保にも直結します。
デジタルツールの導入や給与見直しにはコストがかかるため、費用面が心配でなかなか踏み出せないという企業は、国が提供する助成金や無料の相談窓口などを活用してみましょう。
法改正への対応をきっかけに、社員からも協力会社からも選ばれる建設会社への変革を、今日から一歩ずつ進めていきましょう。


