社会全体で働き方改革が推進されている現在、建設業界でも同様に働き方の見直しが進められています。これまで建設業では猶予されていた「働き方改革関連法」も、2024年から適用開始となるため、建設業の企業では一刻も早い対応が必要です。
この記事では、建設業における働き方改革についてその内容を詳しく解説します。働き方改革を進めるための注意点や便利なシステムなども紹介するので、ぜひ参考にしてください。
建設業の2024年問題について、全体像を把握したい方はこちらをご覧ください。
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建設業の働き方改革の内容とは
建設業界で進められている、働き方改革の主な内容は、以下の3つです。対応が漏れていると法令違反となる可能性があるため、必ず確認しておきましょう。
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時間外労働の上限規制
労働基準法で定められている法定労働時間は、原則1日8時間・週40時間以内となっており、超過すると時間外労働とみなされます。時間外労働をする場合、月45時間以内・年360時間以内と定められていますが、今までは36協定を結んでいればそれ以上に働ける状態でした。
2019年には「働き方改革関連法」が施行され、36協定を結んだ場合でも時間外労働の労働時間に上限が設けられました。短期間での適応が難しいとされ適用猶予を受けていた建設業ですが、2024年からは適用が開始されます。
36協定での時間外労働の上限規制 | 災害時の復旧・復興業務の場合 |
年間720時間・月平均60時間まで <一時的に業務量が増えた場合> 年間720時間かつ、以下のすべてを超えてはならない ・2〜6ヶ月の平均が80時間以内 ・月100時間未満(休日出勤も含む) ・月45時間以上になるのは年6回まで | 上限規制の以下は適用されない ・2〜6ヶ月の平均が80時間以内 ・月100時間未満(休日出勤も含む) |
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割増賃金の引き上げ
2023年4月に労働基準法が改正され、法定時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率が、25%から50%へと引き上げとなりました。休日出勤の場合は、割増賃金は35%です。ただ、従業員との同意のもとであれば、割増賃金の代わりに代替休暇を付与するケースもあります。
3億円以下の資本金、または従業員が300人以下の中小企業では、適用が猶予されていましたが、2023年4月から適用開始となります。
同一労働同一賃金
大企業や中小企業で適用されてきた「同一労働同一賃金」が、2024年4月から建設業にも適用されます。「同一労働同一賃金」とは、正規・非正規などの雇用形態に関わらず、同じ仕事をしているなら同じ賃金を払うという法律です。
賃金だけでなく、出勤手当や危険手当などの手当も対象となります。建設業では、まだ導入ガイドラインなどの整備が不十分なため、他の業界での事例を参考にするとよいでしょう。
建設業で「2024年問題」と言われている背景
2024年には、適用猶予とされていた「働き方改革関連法」が適用になるほか、労働基準法の「割増賃金の引き上げ」や「同一労働同一賃金」の適用も始まります。建設業界が抱える労働環境の課題を早急に解決しなければなりません。
働き方改革の一環となるこれらの法令は、建設業では短期間での適応が難しいと判断され、準備期間として猶予期間が設けられていました。しかし、その猶予期間で十分に準備するには、建設業界の課題は深刻で、現在でも多くの企業が対応に追われているため、「2024年問題」と言われています。
働き方改革関連法では、違反すると6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。適用開始までの早急な環境改善は、すぐそこまで迫っています。
建設業で働き方改革が進まない理由
そもそも、なぜ建設業界において、働き方改革への対応が進まないのでしょうか?その理由として、以下の2つの課題が挙げられます。
深刻化する人材不足
日本は少子高齢化が進んでおり、労働人口が減少しています。特に建設業界では、労働者の高齢化が進んでおり、今後の団塊世代の引退による人材不足の深刻化が懸念されています。
肉体労働で拘束時間も長くなりがちな建設業は、若年層の離職率が高い業界の1つです。人材確保のためにも、労働環境の改善が必要ですが、人材不足によって一人ひとりの業務負担が増え、対応が遅れています。
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常態化した長時間労働の環境
建設業は、他の業界と比べると、労働時間が長い傾向にあります。時間外労働が発生し、長時間労働が常態化しているため、改善は容易ではありません。
長時間労働の常態化は、人材不足や取引先からの短期での依頼などが要因となっており、その結果働き方改革への対応も遅れています。
「建設業働き方改革加速化プログラム」からみる具体的な施策
国土交通省は、建設業の働き方改革を実現するために「建設業働き方改革加速化プログラム」を発表しました。そのなかでは、以下のような具体的な施策も提示されています。
労働時間の適正管理
時間外労働の上限規制が施行されるため、プログラムのなかでも労働時間の管理が必要とされています。具体的な施策としては、週休2日制の導入や、適正な工期の設定が挙げられています。
建設業では、短期の施工によって長時間労働をせざるを得ない現状があるのも事実です。発注者ごとの特性を加味したうえで、無理のない工期設定を意識しなければなりません。施策の実施には、協力会社や発注者の協力も必要です。
給与や社会保険などの環境整備
働き方改革への対応のためには、仕事内容や経験に応じた適正な処遇や社会保険への加入の徹底も必要です。プログラムでは、賃金水準の見直しや「同一労働同一賃金」への対応、建設キャリアアップシステムへの加入なども必要とされています。
自社に所属する従業員のなかで、社会保険の加入条件を満たしている従業員は、全員が漏れなく加入手続きができるよう、管理体制を整えることが大事です。
ICT活用による生産性向上
建設業界の人材不足の深刻化に伴い、ICTの活用によって生産向上を目指すのも必要とされています。書類の申請手続きは電子申請を利用する、IoTや新技術を導入するなど、各業務の人的リソースを削減できれば、効率的に業務を進められます。
図面管理や施工管理、勤怠管理、社内連絡などを一元的に管理できるシステムの導入など、ICTによる効率化を図れば、少ない人数でも時間外労働を抑えて働けるでしょう。
下記では、施工管理業務を効率化するための4つの手段について詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:施工管理業務を効率化する手段 4選
建設業で働き方改革を進める注意点
建設業の企業が、働き方改革を進めていくうえでは、以下の2点に注意が必要です。
36協定届が新様式に変更
働き方改革関連法案の適用によって、36協定届が新様式になるため注意が必要です。これまでの36協定締結での必要書類は1枚のみでしたが、法案適用後は2枚になります。
法定時間外労働の上限を超えて働いてもらう必要があるのであれば、新様式に注意して、特別条項付36協定の申請を忘れずに行いましょう。
発注者の協力が必要不可欠
時間外労働の上限規制に対応するには、徹底した労働管理が必要です。時間外労働を減らすには、適正な工期の設定が必要であり、発注側の協力も仰ぐ必要があります。建設業で常態化している長時間労働は、発注者側の意識改革も必要とされています。
適正な工期設定が困難な場合は、発注者支援を実施している外部機関を活用するのも1つの方法です。
建設業の労働環境管理には一元管理システムがおすすめ
長時間労働の是正や生産性向上には、一元管理システムの導入がおすすめです。クラウド型建設プロジェクト管理サービスの「ANDPAD」は、施工管理や図面管理、写真管理などが一元管理できるほか、チャット機能によって社内の情報共有にも役立ちます。
既存システムとのAPI連携によって、二度手間も防ぎ、業務効率化につながります。システム導入によって施工業務の管理がスムーズになれば、長時間労働の削減にもつながるでしょう。
建設業の働き方改革におけるシステム導入事例
実際に「ANDPAD」を導入した企業では、労働環境の改善を実現しているところもあります。以下で導入事例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
システム活用で工期短縮を実現
上村建設株式会社様では、顧客アンケートでの工程管理に関する満足度の低さや、遅延によるトラブルなどの課題があったため、ANDPADの施工管理やチャット、検査機能を導入しました。
その結果、リアルタイムで情報共有が可能となり、進捗管理がしやすくなったという効果が出ています。工程表の活用などでは、工事期間の25%程度の削減につながりました。
年配の従業員や職人も多い中なかでも、操作性がわかりやすく、利用のハードルが低いため、導入促進が進んでいます。
システム活用で検査資料をまとめる時間を80%削減
白石建設株式会社様では、現場の情報がローカル管理で煩雑になってしまうことから、ANDPADの図面管理や施工管理、チャットを導入しました。
導入後は、撮影した写真に直接文字や印を書き込めるため、現場状況の確認や報告、相談などの情報共有スピードがアップしています。時間のかかる検査や検査後の資料をまとめる時間が80%短縮し、効率化を実現。図面機能によって検査のスピードも上がっています。
まとめ
建設業界でも働き方改革が重要視されていますが、2024年問題に直面し、対応に追われている企業が多くあります。しかし実際の現場では、人材不足や長時間労働の状態化によって、なかなか改善が難しいというケースもあるでしょう。
ただ、現状のままでは法令違反などのリスクにつながってしまうため、本記事で解説した対応施策や注意点を参考に、やるべきことから取り組む必要があります。
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※本記事は2023年11月27日時点の法律に基づき執筆しております。