労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康の確保、快適に過ごせる職場環境作りを促進する法律です。この記事では、労働安全衛生法の概要や労働基準法との違い、事業者が守るべき義務などを解説します。2024年4月に改正された項目についても詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。
労働安全衛生法(安衛法)とは
労働安全衛生法は、労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境作りを促すために、1972年に制定された法律です。安衛法とも呼ばれており、労働者を雇用する事業者は労働安全衛生法を遵守する義務が生じます。労働安全衛生法では、労働者の安全を守るために、事業者が講ずべき措置などのルールが定められています。
労働安全衛生法が制定された目的と背景
ここでは、1972年に労働安全衛生法が制定された目的と背景について、解説します。
労働安全衛生法が制定された目的
労働安全衛生法が制定された目的は、労働者の安全と健康の確保、および快適な職場環境の形成促進です。上記の目的を達成できるように、労働安全衛生法では、労働者の危険や健康障害を防止するための措置や、機械や危険物・有害物に関する規制などが定められています。
労働安全衛生法が制定された背景
労働安全衛生法が制定された1972年は、高度経済成長期の終わりごろで、労働災害が多発していた時期です。工場法や鉱業法などにおいては、労働安全衛生に関する法規制が戦前から定められていたものの、これらの規制は労働災害が起こりやすい一部の業種に特化したものでした。
1947年に労働基準法が制定され、業種を問わず適用される労働安全衛生に関する法規制が定められます。
そして高度経済成長期を経て労働災害が多発するようになり、総合的な労働安全衛生に関する規制を整備する必要性が高まったため、労働基準法の関連規制を独立・拡充させる形で1972年に労働安全衛生法が成立しました。
参考:図1 労働災害による死傷者数、死亡者数|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
労働安全衛生法と労働基準法との違い
労働安全衛生法と労働基準法は、いずれも労働者を守るための法律ですが、定められている規制の目的や内容に違いがあります。労働安全衛生法は、労働者の安全と健康の確保、および快適な職場環境の形成促進を図ることを目的とした法律です。
これに対して労働基準法では、賃金や法定労働時間、休日など、労働条件に関して事業者が最低限守るべき基準を定めています。労働基準法の目的は、使用者に対して弱い立場に置かれがちな労働者を保護し、健康で文化的な生活の糧を確保できるようにすることです。
労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則とは
労働安全衛生法に関する技術的・細目的事項は、「労働安全衛生法施行令」と「労働安全衛生規則」において定められています。以下では、労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則の概要について解説します。
労働安全衛生法施行令の概要
「労働安全衛生法施行令」は、労働安全衛生法に規定された事項を実施するための細則を定めた政令です。労働安全衛生法施行令では、主に以下の事項が定められています。
総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医・作業主任者を選任するべき事業場
統括安全衛生責任者を選任すべき業種等
安全委員会・衛生委員会を設けるべき事業場
労働安全衛生法の規制の適用を受ける機械・有害物
職長等の教育を行うべき業種
- 就業制限・作業環境測定・健康診断・健康管理手帳の対象など
労働安全衛生規則の概要
労働安全衛生規則」は、労働安全衛生法の規制を実施するための技術的事項などを定めた厚生労働省令です。
労働安全衛生規則には、事業者が労働安全衛生法に基づく規制を遵守するに当たり、対応が必要となる具体的事項などが詳細に定められています。各事業者においては、労働安全衛生法と労働安全衛生規則の規制を相互に参照しながら、法令全体の遵守に努めなければなりません。
労働安全衛生法に定められた事業者の義務
労働安全衛生法では、主に事業者に対して以下の義務を課しています。
管理者・責任者・産業医などの選任
労働安全衛生法「第三章 安全衛生管理体制」では、各種管理者等の設置義務を規定しています。管理者等を選任しなかったり、規定の業務に就かせなかったりした場合、事業者には罰則が科されます。
事業者に対して選任が義務付けられている管理者等は、以下のとおりです。常時雇用労働者数や業種・作業内容に応じて、管理者等の選任義務が課されます。
総括安全衛生管理者
安全管理者
衛生管理者
安全衛生推進者
産業医
作業主任者
統括安全衛生責任者
元方安全衛生責任者
店社安全衛生責任者
安全衛生責任者
労働災害の防止措置
「第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」には、労働者の危険や健康障害を防止するための措置を講ずる義務が定められています。事業者は、機械・器具その他の設備、爆発性・発火性・引火性のある物、電気・熱その他のエネルギーなどに関して、労働安全衛生法所定の危険防止措置を講じなければなりません。
また事業者は、ガス・粉じん・放射線・排気・排液などによる健康障害の予防対策も講じることが義務付けられています。
安全衛生委員会等の設置
林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業等を営む事業者においては、一定数以上の労働者を使用する事業場ごとに「安全委員会」を設置しなければなりません。安全委員会は、労働者の危険防止に関する事項を調査・審議し、事業者に対して意見を述べる役割を担います。
また、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、「衛生委員会」の設置が義務付けられています。衛生委員会は、労働者の健康障害の防止に関する事項を調査・審議し、事業者に対して意見を述べる役割を担います。
衛生委員会と安全委員会に代えて、「安全衛生委員会」を設置することも認められます。安全衛生委員会は、安全委員会と衛生委員会を兼ねた組織です。
安全衛生教育の実施
「第六章 労働者の就業に当たつての措置」では、安全衛生教育について定めています。安全衛生教育とは、労働災害を防止するために、業務の「安全」や「衛生」についての知識を労働者に身につけさせるために実施される教育です。
一部の業種については安全衛生教育の実施が義務付けられているほか、その他の業種についても安全衛生教育の実施が努力義務とされています。
健康診断・ストレスチェックの実施等
「第七章 健康の保持増進のための措置」では、労働者の健康保持・増進のため、事業者に健康診断やストレスチェックの実施を義務付けています。また、病者の就業禁止や受動喫煙防止措置の努力義務など、労働者の健康被害を防止するために事業者が講ずべき対応についても定められています。
リスクアセスメント等
リスクアセスメントとは、作業現場の有害性や危険性などに関するリスクの有無・内容・大きさなどを調査することをいいます。「第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」では、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質に関して、リスクアセスメントの実施が義務付けられています。
また、危険性の高い機械については製造の許可制・製造時の検査義務などの規制が適用されるほか、労働者に重度の健康障害をもたらす可能性がある一部の製剤については、製造禁止または許可制の規制が適用されます。
快適な職場環境の形成
「第7章の2 快適な職場環境の形成のための措置」では、事業者の努力義務として、快適な職場環境作りの形成を促進する措置が定められています。快適な職場環境として、措置を講じることが望まれている項目は、以下の4つです。
作業環境の管理
作業方法の改善
労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備
その他の施設・設備の維持管理
労働安全衛生法を遵守するメリット
事業者が労働安全衛生法を遵守することによって、労働災害を防止し、快適な労働環境を整えることが可能です。ここでは、労働安全衛生法のメリットを、3つに分けて解説します。
生産性が向上する
労働安全衛生法を遵守し、安全で効率的な作業を進めることで、快適な職場環境が促進されます。これにより、従業員が職場で疲労やストレスを感じることが減り、生産性の向上も期待されます。また、仕事の中でのミスが減り、仕事のクオリティ向上にもつながるでしょう。
モチベーションが向上する
安全衛生活動により安全衛生管理の水準、職場の人間関係、働きがいなどが改善され、働きやすい環境が整います。従業員のストレス解消にも効果的です。
また、安全衛生管理を徹底する過程では、管理者と現場担当者の間のコミュニケーションが生まれ、労働環境改善のためのコミュニケーションが充実することで、仕事のモチベーションの向上にもつながります。
人件費が削減できる
事業者が労働安全衛生法を遵守すると、従業員が心も体も健康な状態で長く働けるようになり、休職や離職による人員調整の手間やコストの削減につながります。反対に、労働安全衛生法が守られない状態では、けが人や病人などが続出して、人手不足により生産性が低下したり、残った従業員の負担が増えたりしかねません。
労働安全衛生法改正とは
2024年4月1日に化学物質による労働災害防止のため、労働安全衛生法が改正されました。改正法により、リスクアセスメントが義務付けられている化学物質の製造・取り扱い・譲渡提供を行う事業場ごとに「化学物質管理者」の選任が義務付けられたほか、労働者に保護具を使用させる場合は「保護具着用管理責任者」の専任が義務化されています。
化学物質管理者の選任の概要
化学物質管理者はリスクアセスメントが必要な危険・有害である化学物質(=リスクアセスメント対象物)を製造し、取り扱い、または譲渡提供をする事業場に置く必要があります。化学物質管理者は、その業務を担当するために必要な能力を有する者から選任しなくてはなりません。また、選任すべき事由が発生した日から、14日以内に選任することが義務付けられています。
参考:2-1.化学物質管理者の選任|独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
保護具着用管理責任者選任の概要
化学物質管理者を選任した事業者が、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者の選任も併せて必要です。保護具着用管理責任者は、保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者から選任します。保護具着用管理責任者の業務は、有効な保護具の選択、労働者の使用状況の管理、その他保護具の保守管理にかかわることです。
参考:基発 0531第9号 令和4年5月31日 都道府県労働局長 殿 厚生労働省労働基準局長 ( 公 印 省 略|厚生労働省
まとめ
労働安全衛生法とは、事業者に労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境作りを促すための法律です。事業者には、管理者・責任者・産業医等の選任や労働災害を防止するための措置など、さまざまな事柄が義務付けられています。
2024年4月に新設された化学物質管理者の選任等に関する規制も含め、労働安全衛生法をきちんと遵守し、従業員が安全かつ快適に働ける環境作りを目指しましょう。快適な労働環境を整備するためには、従業員の業務やスケジュールなどを一元化することが効果的です。
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