建設業における利益確保の鍵は、工事原価の管理にあります。その重要性は理解しているものの、適切な管理方法について、具体的なイメージを持てずに悩む担当者も少なくありません。どんぶり勘定から脱却し、各工事の採算性を正確に把握することは、安定した経営基盤の構築に不可欠です。
本記事では、工事原価の定義や構成要素といった基礎知識から、建設業特有の会計処理までを網羅的に解説します。工事原価の基礎や管理方法について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
工事原価とは?
事業の収益性を管理するためには、正確な工事原価の算出が欠かせません。ここでは以下の3項目に分けて、工事原価の基礎を解説します。
- 工事原価の定義
- 純工事費と現場管理費の違い
- 工事価格と工事原価の違い
それぞれを詳しくみていきましょう。
工事原価の定義
工事原価とは、建物の完成までにかかった費用の総額のことです。
これは一般会計の売上原価に相当し、企業の財務状況を把握するうえで、大切な指標となります。工事原価を正確に把握することで、工事ごとの利益や損失が明確になり、適切な価格設定や経営戦略の立案がおこなえます。
純工事費と現場管理費の違い
工事原価は、大きく「純工事費」と「現場管理費」の2つに分けられます。双方の比較を、以下の表にまとめました。
費用区分 | 概要 | 具体例 | 費用の特徴 |
純工事費 | 工事の施工そのものに直接かかる費用 | ・材料費 ・労務費 ・外注費 | 工事の規模や進捗に比例して増減する |
現場管理費 | 工事現場を円滑に運営・管理するための費用 | ・現場事務所の家賃、水道光熱費 ・現場監督の人件費(専属の場合) ・安全対策費 | 工事期間の長短に影響される |
それぞれ違う性質を持っているため、両者を区別し、適切にコスト管理をしましょう。
関連記事:工事での一般管理費とは?内容や内訳・押さえるべきポイントを解説
工事価格と工事原価の違い
建設業の利益を考える際は「工事価格」と「工事原価」の違いも意識しておく必要があります。
項目 | 概要 | 別名・相当 | 位置づけ |
工事価格 | 顧客に提示する工事全体の販売価格 | 請負金額 | 企業の売上となる金額 |
工事原価 | 工事を完成させるために支払ったすべての費用 | 一般会計の 売上原価に相当 | 企業の利益を計算するための費用 |
たとえば工事価格500万円の工事で、原価が400万円の場合、利益は100万円です。
しかし、予期せぬコスト増で原価が上がり、利益が圧迫されるケースも少なくないでしょう。そのため、受注時の正確な見積もりと、工事期間中の原価管理が収益確保のポイントとなります。
関連記事:直接工事費とはどのようなものが当てはまる?基本情報から内訳・計算方法を解説
工事原価の4要素
工事原価は主に、以下4つの要素で構成されています。
- 材料費
- 労務費
- 外注費
- 経費
以下で詳しくみていきましょう。
1. 材料費
材料費とは、主に建物を造るために使用される資材や製品の購入費用のことです。
木材や鉄骨、コンクリート、釘やネジまで含まれます。工事全体における材料費の割合は大きいため、適切な数量の見積もりや、現場でのコスト削減などが求められます。
2. 労務費
労務費とは、建設現場で作業に従事する人々へ支払われる費用のことです。職人や作業員の賃金・給料のほか、会社が負担する社会保険料なども含まれます。
労務費は材料費と並んで工事原価の大きな割合を占めるため、正確な費用の把握と管理が利益確保に欠かせません。各作業員の作業時間を記録し、どの工事にどれだけの費用がかかったかを明確にすることが求められます。なお、現場管理者など直接作業に関わらない人の給与は、後述する経費として処理されます。
3. 外注費
外注費は、自社で対応できない専門工事などを、協力会社や下請業者に依頼して支払う費用のことです。建設工事は多くの専門工事の組み合わせで成り立つため、外注費がかさむことが多くあります。
外注費を適切に管理するには、信頼できる協力会社の選定や定期的な品質確認などが欠かせません。
4. 経費
経費とは、材料費・労務費・外注費のいずれにも当てはまらない、工事に必要なその他の費用のことです。これは特定の工事に紐づけられる「直接経費」と、複数の工事に割り振る「間接経費」にわけられます。それぞれの定義は以下のとおりです。
- 直接経費:工事用機械のレンタル料や現場専用の水道光熱費など
- 間接経費:複数の現場を統括する人件費や共通の機材の維持費など
間接経費の管理における最大のポイントは、配賦(はいふ)という会計上の手続きです。配賦とは、共通で発生した経費を、各工事に一定の合理的な基準にもとづいて割り振ることを指します。間接経費を特定の工事に割り振らなければ、その工事の真の利益を正しく算出できません。
たとえば、ある工事が黒字に見えても「〇〇の経費負担分を計算に入れたら、実は赤字だった」という事態も起こり得るからです。配賦の基準は各工事の直接工事費の割合や工事期間、作業員の投入時間などを考慮し、実態に合わせて最も合理的と判断する基準が用いられます。
建設業会計における未成工事支出金とは?
未成工事支出金とは、決算期末の時点でまだ完成していない工事に対し、それまでに投じられた材料費や労務費、経費などの費用累計額を示す勘定科目です。これは将来の売上(完成工事高)を生み出すための先行投資とみなされ、貸借対照表に資産として計上されます。
未成工事支出金を工事ごとに管理することで、進行中のプロジェクトのコストが予算内に収まっているかをリアルタイムで把握することが可能です。顧客に引き渡した後は、その工事の最終コストである「完成工事原価」という費用勘定に振り替えられ、最終的な利益が確定します。
工事原価を管理する重要性
ここでは、工事原価を管理する重要性について、以下3つの観点から解説します。
- 適正な利益を目指せる
- 経営判断の精度が高まる
- 資金繰りが安定しやすくなる
それぞれを詳しくみていきましょう。
関連記事:建設業の工事原価管理とは?概要や重要性、適切に工事原価管理するメリットを解説
適正な利益を目指せる
事前に策定した実行予算と、実際に発生した実績原価を比較・分析することで、計画外のコスト増を早期に発見できます。
予期せぬ事態でコストが嵩んでも、代替材料の検討や工程の見直しといった対策が打ちやすくなるでしょう。これにより損失を最小限に抑えられるため、目標利益の確保につながります。原価管理はどんぶり勘定を防ぎ、確実に利益を生み出す体制づくりの基本です。
経営判断の精度が高まる
工事原価のデータを蓄積・分析することは、経営判断の精度を大きく向上させます。過去の原価データは、将来の受注判断や適切な価格設定、事業戦略を策定する際の強力な羅針盤となります。利益の出やすい工事を把握しておくことで、リスクの高い工事に対して慎重な価格設定ができるようになるでしょう。
データにもとづいた意思決定は、勘や経験だけに頼るよりも合理的で、企業の成長を支える力となります。
資金繰りが安定しやすくなる
建設業は先行支出が多く、資金繰りの管理がとくに大切です。工事原価を正確に管理することで、将来の支出予定を高い精度で予測でき、資金繰りを安定させられます。
これにより、入金予定と照らし合わせて資金が不足しそうな時期を事前に察知し、融資の準備を進めるなど、先手を打った対応が可能になります。適切な原価管理による支払い予定の見える化は、安定した経営に欠かせません。
工事原価管理を効率化する方法
工事原価管理をスムーズにおこなうには、以下3つのポイントをおさえておきましょう。
- 積算ソフトを導入する
- 進捗管理システムを活用する
- 会計システムと連携させる
以下でそれぞれを詳しく解説します。
積算ソフトを導入する
積算ソフトを導入することで、手作業では時間のかかる計算が瞬時におこなえます。
作業の多くを自動化することで、ヒューマンエラーの発生も軽減できるでしょう。精度の高い見積もりは、プロジェクト全体の原価管理の基礎を強固なものにします。
進捗管理システムを活用する
進捗管理システムを導入することで、プロジェクトの進捗と原価の発生状況をリアルタイムで可視化できます。現場からスマートフォンなどで入力された情報は即座に共有され、どこからでも最新の状況を把握できるようになります。
これにより、事前の計画と実績の差異が生じた場合、早めに対策が打てるようになるでしょう。
会計システムと連携させる
工事原価の管理をさらに効率化するには、各種業務システムと会計システムを連携させることがおすすめです。それぞれのシステムが連携していないと、二重入力の手間や転記ミスが発生するリスクがあります。
APIなどでシステムを連携させれば、原価管理システムのデータが自動で会計システムに仕訳として取り込まれます。これにより経理業務は飛躍的に効率化し、週次や月次のレポートなども素早く完成させられるでしょう。
工事原価の管理に関するよくある質問
最後に、工事原価の管理に関するよくある質問に回答します。
- 工事原価率の平均は何パーセント?
- 工事原価はどのタイミングで経理処理(仕訳)するべき?
会計業務のなかで不明点があれば、先輩や経営者の判断を仰ぐとよいでしょう。
工事原価率の平均は何パーセント?
工事原価率は工事の種類や企業規模によって大きく変動するため、すべての建設業に共通する単一の平均値を示すのは困難です。大切なのは一般的な平均値を追い求めることではなく、自社が手がける工事の特性や過去の実績をふまえ達成可能な目標原価率を設定することです。
なお、国土交通省のホームページに建設工事の原価に関する公的データが掲載されていますので、参考にしてみてください。
参照:国土交通省 建設工事施工統計調査報告(令和5年度実績)
工事原価はどのタイミングで経理処理(仕訳)するべき?
工事原価が費用として計上されるのは、原則として工事が完成し、顧客に引き渡された時点です。これは、会計ルールの発生主義(現金の動きではなく、事実の発生で記録する考え方)にもとづいています。会計処理が発生するタイミングは、未成工事支出金の入力時と、完成工事原価に振り替える際の2回が基本です。
ANDPAD引合粗利管理なら現場ごとの原価・粗利をリアルタイムに可視化!
ここからは、工事原価管理の効率化に貢献する具体的なツールとして、株式会社アンドパッドが提供する「ANDPAD引合粗利管理」について、実際の導入事例を交えて紹介します。
ANDPAD引合粗利管理は、建設業界特有の複雑な業務プロセスを一元管理し、経営の効率化を実現する、クラウド型建設プロジェクト管理サービスです。見積作成や原価管理、会計処理に至るまで、企業の基幹業務を一気通貫でデジタル化し、必要な情報をリアルタイムで集約・可視化します。部門間の情報共有が円滑になり、テンプレート活用による見積作成や、実行予算・発注管理へのシームレスな連携が可能です。
ANDPAD引合粗利管理の導入は、業務効率化はもちろん、プロジェクトごとの収益性を正確に把握できるため企業全体の収益力強化に貢献します。
株式会社IPS|営業管理の改善で受注率アップと正確な原価管理を実現
埼玉県上尾市で外装リフォーム事業を展開する株式会社IPS様(ガイソー上尾店)。導入前は、案件増加に伴い表計算ソフトでの管理が煩雑化していました。
また、営業担当ごとに見積もりの粗利率が管理できず、施工と営業でシステムが分断され二重入力が発生している点も課題でした。ANDPADの導入により、営業から施工、アフター点検まで情報の一元管理を実現。新人でも原価をふまえた正確な見積もりを作成できる仕組みが整い、組織全体の営業力が向上しました。
結果として、適正な粗利を確保しながら受注率を高めることに成功しています。
関連記事:営業管理の改善で受注率アップと正確な原価管理を実現。新人の見積もり品質と営業を的確にするANDPAD引合粗利管理
有限会社立石設計|粗利管理 資材高騰、職人不足の影響下でも安定して粗利を確保
京都府福知山市で地域密着の設計事務所として事業を展開する有限会社立石設計様。導入前は、完工後でないと粗利が確定しない、いわゆるどんぶり勘定が課題でした。
また、複数のソフトが連携せず二重入力が発生したり、経理担当者が紙の請求書業務に追われたりする問題も抱えていました。ANDPADの導入により、実行予算の見える化を実現。資材高騰の影響下でも、現場ごとの粗利を正確に把握できるようになりました。
これにより、的確な見積もり作成とコスト管理が可能となり、前期比で粗利率が10%向上する見込みです。請求業務のデジタル化も進み、会社全体の生産性が向上しています。
関連記事:ANDPADで粗利管理 資材高騰、職人不足の影響下でも安定して粗利を確保
株式会社タカラベ|粗利率5~10%改善を実現した、大規模修繕のビジネス解像度向上と組織変革の軌跡
東京都板橋区でビルやマンションの大規模修繕工事を主力とする株式会社タカラベ様。導入前は現場情報が担当者ごとに管理されて属人化し、情報共有が課題でした。
また、写真管理の手間や不十分な収支管理も問題となっていました。ANDPADの導入により、リアルタイムな情報共有が可能となり、情報の属人化という課題が解消。写真管理の手間も削減され、事業の透明性が向上したことで経費管理の精度が上がり、結果として粗利率が5~10%改善するという成果を上げています。
関連記事:粗利率5~10%改善を実現した、大規模修繕の「ビジネス解像度向上」と「組織変革」の軌跡
まとめ
本記事では、工事原価の定義から4つの構成要素、そして管理の重要性までを解説しました。工事原価を正確に把握することは、適正な利益の確保や的確な経営判断に欠かせません。工事原価管理を単なるコスト計算業務ととらえず、企業にとって極めて戦略的な経営活動と位置づける必要があります。
この記事で得た知識をもとに、まずは自社の原価管理の現状を分析し、どこに課題があるのかを明確にすることから始めてみてください。ITツールの活用も視野に入れながら、最適な管理体制を構築することが、企業の持続的な成長を支える確かな一歩となります。