工事台帳は建設業に欠かせない書類の1つです。工事台帳を作成することで、現場ごとの進捗や収支、利益率が正確に把握できます。この記事では、工事台帳の目的や重要性、記載する費用項目、具体的な作成方法を解説します。業務効率化を実現するポイントもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
工事台帳とは
工事台帳とは、現場ごとの取引内容を記載し、工事原価を集計したものです。工事原価とは、建設物をつくる過程で発生する費用のことで、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つで構成されています。
工事台帳に決まったフォーマットはありませんが、上記の4つは必ず記載しなければなりません。工事台帳の名称は現場によって異なる場合があり、「工事管理台帳」「工事原価台帳」「工事原価管理帳」と呼ばれることもあります。
工事台帳を作成する5つの目的
工事台帳を作成する目的は、主に5つあります。以下で、それぞれについて詳しく解説します。
完成工事原価と未成工事支出金を算出するため
工事台帳は、完成工事原価と未成工事支出金を算出する際に用いられます。完成工事原価とは、完成した工事にかかった原価で、材料費・労務費・外注費・経費の4つから成ります。完成工事原価がわかると、工事による利益も明確になります。
一方で、未成工事支出金は、まだ完成していない工事にかかる費用です。同じ4つの項目で構成され、棚卸資産として扱われます。原価管理について詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:建設業の工事原価管理とは|利益率を高める原価管理システムの選定ポイントも解説
工事ごとの収支や利益率を適切に管理するため
工事台帳を作成することで収支や利益率が管理しやすくなり、正確な経営状況の把握にも役立ちます。また、無駄な人員投入や原価割れのリスクを防ぐことも可能です。
経営状況を把握するため
工事台帳を作成することで、経営状況を適切に把握しやすくなります。各工事にどれだけの費用がかかっているのか、支出や項目ごとの内訳を明確に記録できます。これにより、工事ごとの採算や全体の収支が把握しやすくなり、経営状況を正確に把握するための重要な情報源となります。
経営事項審査で提出する必要があるため
工事台帳は、経営事項審査で提出する必要があります。経営事項審査は、公共工事を受注する建設業者に義務付けられた審査で、入札の際に必要な資格審査の一部です。審査は「客観的事項」と「主観的事項」で評価され、点数化して順位付けされます。経営事項審査は客観的事項にあたり、工事台帳の提出が求められます。
税務調査への対応が必要なため
工事台帳は税務調査でも使われます。各工事の支出や費用内訳を記録することで、調査官の指摘にスムーズに対応できます。曖昧な管理は調査官に指摘されやすいです。工事台帳を作成し、工事の完了状況や費用を具体的に説明できるようにしましょう。
工事台帳の重要性
公共工事の入札に参加するためには工事台帳の作成が欠かせません。公共工事を請け負う場合は、建設業法で定められている「経営事項審査」を受ける必要があります。経営事項審査では、さまざまな書類の提出が求められますが、工事台帳も提出資料の1つです。工事台帳の内容をもとに、経営状況や経営規模、技術力が客観的に評価されます。
工事台帳は労災保険の申告や税務調査の資料としても活用できます。工事台帳は社内だけでなく、外部への提出書類としても重要な役割を果たします。
工事台帳の保存期間
建設業法では、書類や帳簿の保存期間が定められています。
【原則】5年保存の書類・帳簿
- 営業所の代表者に関する事項
- 建設工事の請負契約に関する事項
- 下請契約に関する事項
- 添付書類
【例外】10年保存が必要な書類
- 元請工事の完成図
- 発注者との打ち合わせの記録・議事録
- 施工体系図
- 発注者から直接請け負った新築住宅建設に関する事項
これらの保存義務は建設業許可を持つ業者に限られます。工事台帳は直接の保存義務対象ではありませんが、税務調査や書類開示請求に備え、他の書類と同じ期間保存することをおすすめします。
工事台帳に記載する費用項目
工事台帳に記載する費用項目は、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つです。それぞれの項目を見ていきましょう。
1. 材料費
材料費とは、工事に必要な材料の仕入れにかかる費用のことです。材料の原価だけでなく、配送費や運賃などの費用も含まれます。
2. 労務費
労務費とは、現場の作業員に支払う給与や手当、交通費のことです。自社で雇用している作業員であれば、正社員やアルバイトといった雇用形態に関係なく労務費として記載します。自社が雇用していない作業員への給与・手当・交通費などは、外注費に振り分けます。
関連記事:建設業の労務費とは?人件費との違いや計算方法、管理に使えるツールも解説
3. 外注費
外注費とは、工事を外部業者に依頼したときにかかる費用のことです。建設業では、専門性の高い作業を依頼したり、自社の人手不足を補ったりするために外注することが少なくありません。自社が直接雇用していない協力業者の作業員に支払う費用は、外注費として記載します。
4. 経費
経費とは、上記3つ以外の費用のことです。具体的には、工事現場の光熱費や重機を借りた費用、事務用品費などが該当します。現場に設置した仮設事務所で働く事務員の給与や手当も、経費としての計上が可能です。
工事台帳の作成方法
エクセルや施工管理システム・ソフトを活用することで、工事台帳を効率的に作成できます。ここでは、エクセルと施工管理システム・ソフトのメリット・デメリットを解説します。
エクセルを利用する
エクセルを利用した工事台帳の作成は、多くの業者が取り入れている方法です。エクセルでは、「日付」「工事名(工事ナンバー)」「仕入先(仕入先コード)」を入力したうえで、それぞれの費用を記載していきます。エクセルの関数を使って自動で計算できる項目もありますが、基本的には手作業です。「工事ナンバー」「仕入先コード」のように、数値で表して集計作業を簡略化しましょう。
関連記事:工事台帳をエクセルで作成する方法・手順とは?テンプレート活用のポイントも解説
メリット
エクセルは、ほとんどのパソコンで標準装備されているため、導入コストがかかりません。エクセルの操作に慣れている人も多く、業務の属人化も防げます。エクセルに関する知識があれば本格的なカスタマイズも可能です。
デメリット
エクセルは、リアルタイムの情報共有には向いていません。共有フォルダなどでデータをやりとりすることはできますが、同時に編集しようとした際に「ファイルが開けない」「保存ができない」といったトラブルが生じるケースもあります。
また、手作業が基本となるため、入力ミスが発生しやすいのもエクセルのデメリットです。カスタマイズしていた場合は、エクセルに詳しい人が退職してしまうと作業が滞ってしまうリスクもあります。
施工管理システム・ソフトを導入する
工事台帳には、義務付けられた保存期間はないものの、ほかの書類や帳簿とあわせて少なくとも5年間保存しておくのがおすすめです。施工管理システム・ソフトを活用することで、作成だけでなく保管の手間も省けます。
メリット
複雑な計算も自動化できる施工管理システム・ソフトなら、人為的なミスを軽減できます。スマートフォンやタブレットからアクセスできるシステム・ソフトであれば、すきま時間を有効活用でき、業務効率も向上するでしょう。工事データを一元管理することでスムーズな情報共有が行えるのも、施工管理システム・ソフトのメリットです。
デメリット
施工管理システム・ソフトのデメリットとしては、導入コストがかかる点が挙げられます。また、新しいシステム・ソフトに慣れるまでは一時的に生産性が落ちやすいでしょう。システム・ソフトを導入する際は一斉に運用を切り替えるのではなく、トライアル期間を設けるなど工夫が必要です。
工事台帳に関する注意点
ここからは、工事台帳に関する注意点を解説します。保存期間や記載方法のポイントを知り、適切な運用を目指しましょう。
工事台帳の作成は義務
先に解説したとおり、工事台帳は経営事項審査の提示資料の1つです。根拠となる建設業法第27条の23項によると、公共工事を直接請け負う場合は、経営に関する審査を受けなければならないと明記されています。経営事項審査を受けないと入札に参加できないため、公共工事に関わる事業者にとって工事台帳の作成は欠かせません。
5年または10年間は保存する
工事台帳そのものに保存期間は定められていないものの、5年または10年間の保存がおすすめです。建設業者は営業所ごとに帳簿および添付書類を備え、一定期間保存することが義務付けられています。帳簿作成時には添付書類として工事台帳の情報が必要です。建設業法の帳簿保存期間は5年(元請業者は10年間)となるため、帳簿と同じ期間保存しておくとよいでしょう。
金額は税抜きで記載する
経営事項審査を受ける場合、各種書類は税抜き金額での作成が一般的です。ほかの書類と同様に、工事台帳も税抜きで記載しましょう。数年に渡る工事では消費税率が変わってしまう可能性もあるため、税抜きで記載しておくと便利です。
施工管理システム・ソフトを選ぶポイント
施工管理システム・ソフトは、自社の課題を解決できるものを選ぶことが大切です。業務効率の向上も考えると、工事台帳の作成や管理だけでなく、建設業に役立つ機能が備わっているシステム・ソフトを選ぶとよいでしょう。建設業では、インボイス制度や改正電子帳簿保存法への対応も欠かせません。導入後のサポート体制も比較しながら、自社に合ったシステム・ソフトを探しましょう。
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見積もりは、ゼロからの作成はもちろん、テンプレートの活用や外部ファイルの取り込みにも対応しています。さらに、実行予算から受発注まで一貫して管理できるため、現場の状況や粗利の変動もリアルタイムで把握できます。
まとめ
工事台帳を作成することで、工事ごとの収支や利益率が適切に管理でき、経営状況の把握にも役立ちます。また、工事費用に関するデータを蓄積することで、正確なコストが予測しやすくなり、原価割れを起こしてしまうリスクも軽減できます。
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※本記事は2023年12月28日時点の法律に基づき執筆しております。