建設業における工事未払金は、工事にかかった費用のうち、まだ支払われていない金額を管理するための重要な科目です。仕訳方法や仕訳例、税務上の取り扱いを理解しておくことで、現場情報と会計情報を正確に連携させ、資金管理や工事進捗の把握を効率化できます。
この記事では、工事未払金の基本から仕訳例、税務対応、効果的な管理方法までを解説します。建設業における工事未払金について知識を深めたい人は、参考にしてください。
工事未払金とは?
工事未払金とは、建設工事の実施に伴って発生した原価のうち、まだ支払われていない金額を処理するための勘定科目です。「完成工事高」や「完成工事原価」など、「工事」とつく勘定科目の一つにあたります。原価には、資材の仕入れ費や人件費、外注費などが含まれます。以下で、建設業における工事未払金の役割について解説します。
建設業における工事未払金の役割
建設業の場合、資材を調達し工事を進めてから完成品を顧客へ引き渡すという流れのため、一般企業の会計とは異なる科目体系が用いられます。一般会計でいうところの買掛金に相当する科目と考えると理解しやすいでしょう。
工事未払金と他勘定科目の違い
工事未払金は建設業特有の勘定科目であるため、似た名称の科目と混同されやすいという特徴があります。特に、一般企業でも使われる未払金や買掛金、建設業ならではの未成工事支出金とは区別が必要です。ここでは、それぞれの違いについて解説します。
工事未払金と未払金の違い
未払金とは、品物などは受け取っているものの、代金をまだ支払っていない状態を示す勘定科目です。商品や原材料といった通常の営業取引で扱う棚卸資産には用いられず、継続的な取引ではない固定資産の取得や備品・消耗品の購入時などに使われます。工事未払金と未払金は、どちらも取引自体は完了しているにもかかわらず、支払いが済んでいない点では同じです。
主な違いは、未払いが発生した取引の種類にあります。工事未払金は建設業などの本業に関わる工事契約によって発生する未払いであり、営業活動とは直接関係しない支払いの遅れを処理する未払金とは性質が異なります。
工事未払金と買掛金の違い
買掛金は、商品やサービスを「掛取引」で仕入れた際に、後払いとなる代金を記録する勘定科目です。主に、販売用の商品を仕入れた場合や、製造のために必要な材料を購入した場合に用いられ、あらゆる掛取引に使われるわけではありません。
工事未払金が建設業など限られた業種で使用されるのに対し、買掛金は小売業や飲食業など、多様な分野で広く利用される点が大きな違いです。また、買掛金では支払いを後日にする合意は口頭での約束として扱われますが、支払いに手形を使う場合は法的拘束力を持つ契約となり、「支払手形」という別の勘定科目で処理します。
工事未払金と未成工事支出金の関係
未成工事支出金は、進行中の工事で発生した原価をまとめて管理するための勘定科目です。材料の購入費や協力会社への委託費など、実際に支払い済みのものだけでなく、未払いで計上されている工事未払金も含めて、工事に投入されたコストを把握するために使われます。一般会計における「仕掛品」と同じ位置づけの科目です。
対して「工事未払金」は、工事に関連してまだ支払われていない金額だけを示す科目です。
関連記事:未成工事支出金とは?建設業会計の仕訳例や内訳・会計処理・管理のポイントを解説
工事未払金の仕訳方法
工事未払金の仕訳は、工事にかかった費用が決算時点で未払いの場合に計上されます。工事未払金には、主に次のような支出が含まれます。
- 職人や作業員へ支払う人件費
- 工事に使用する資材の購入費
- 協力会社へ依頼した工事の外注費
- 工事の遂行に伴って発生する各種経費
例えば、建設会社が資材を掛けで購入し、代金をまだ支払っていない場合、その金額は工事未払金として扱われます。また、協力会社に支払う外注費を一部だけ支払い、残りを後日支払う形にした場合、未払いの分は工事未払金として計上されます。工事未払金の仕訳例は、以下で解説します。
工事未払金の仕訳例
工事未払金の仕訳は、費用の発生や支払いのタイミングによって処理が異なります。ここでは、請求書を受け取った時点、実際に支払った時点、前払いした場合それぞれの仕訳例を解説します。
請求書受領時の仕訳例
仕入れ先から工事費として100万円(うち消費税10万円)の請求書を受け取ったケースです。
- 借方:建物 100万円
- 貸方:工事未払金 100万円
支払時の仕訳例
前月に未払いとなっていた工事費100万円を普通預金から支払ったケースです。
- 借方:工事未払金 100万円
- 貸方:普通預金 100万円
前払いした場合の仕訳例
工事契約に基づき、工事着手前に30万円を前払いしたケースです。
- 借方:前払金 30万円
- 貸方:普通預金 30万円
その後、工事が完了し精算する場合は、次の通りです。
- 借方:建物等 100万円
- 貸方:前払金 30万円、工事未払金 70万円
工事未払金の税務上の取り扱い
工事未払金として計上する当期の支出を税務上扱う際には、特に「確定債務であるか」と「履行義務がどの程度果たされているか」の2点が重要です。まず、確定債務についてです。確定債務とは、事業年度末までにすでに債務の原因となる事実が生じ、かつ金額を合理的に見積もれる債務を指します。
工事未払金は、確定債務にあたるかどうかによって、損金算入の可否が判断されます。例えば、材料費の未払いなど多くの工事未払金は確定債務に該当するため、原則として当期の損金に含めても問題ありません。
次に、履行義務の充足状況にも注意が必要です。税務上は、原則として工事が完成し引き渡された時点で収益(益金)として計上し、収益に対応する工事原価も計上します。そのため、確定債務であっても収益認識がされていなければ損金に算入できません。ただし、工事の進捗が明確に把握できる場合には、進捗度に応じて益金や損金を按分して計上することが可能です。
工事未払金の効果的な管理方法
工事未払金を適切に管理するためには、支払サイクルの設定、社内ルールの整備、滞留防止と早期支払いの徹底、PDCAサイクルによる管理体制の運用が重要です。支払サイクルは、工事未払金の発生から支払いまでの期間を明確に定め、社内で周知徹底することで、計画的な資金管理を可能にします。
社内ルールでは、未払金の計上基準や証憑の保管方法、支払申請・承認の手順、チェック体制、取引先との支払条件の方針などを文書化し、定期的な教育や見直しを行うことが必要です。また、未払金の滞留を防ぎ、早期に支払うことも重要です。請求書や支払予定日を適切に管理し、滞留案件を速やかに把握する体制を整え、取引先との信頼関係を維持します。
さらに、経理部門と工事部門が連携して管理体制を整え、PDCAサイクルを回すことで、発生状況や滞留状況の把握、改善策の実施を継続的に行えます。滞留期間、支払遅延率などの指標を設定して定期的に確認することで、工事未払金の管理を継続的に改善できるでしょう。
まとめ
工事未払金は、建設業の資金管理や工事進捗の把握に直結する勘定科目です。正確な仕訳処理や税務上の対応を理解するとともに、支払サイクルの明確化や社内ルールの整備、滞留防止と早期支払いの徹底、PDCAによる管理体制の運用が不可欠です。
これにより、資金繰りの安定化、取引先との信頼関係維持、業務効率化が図れ、工事未払金の管理レベルを持続的に向上させられます。
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