建設業における赤伝処理は、協力会社との取引を適正に行うために欠かせない実務の1つです。しかし、建設業法にもとづいた正しい手順を理解していないと、法令違反となるリスクがあります。
この記事では、施工管理を行う建設会社の担当者に向けて、赤伝処理の意味から建設業における役割、法令違反となるパターンなどを解説します。適切な赤伝処理を行う際の参考にしてください。
赤伝処理とは
赤伝処理とは、すでに発行した伝票の内容の修正・取り消しのために使われる会計処理の方法です。
赤伝の意味と読み方を解説
赤伝は「あかでん」と読み、正式には「赤伝票」と呼ばれます。赤伝とは、すでに起票された伝票の誤りを訂正したり、取引内容を取り消したりする際に発行される伝票です。通常の伝票は黒字で金額を記載しますが、赤伝では金額を赤字で記載することで、元の伝票を相殺します。赤伝を発行したうえで、正しい内容の伝票を起票します。
建設業における赤伝処理の特徴
建設業における赤伝処理は、他業種とは異なる特有の使われ方をします。建設業では、元請会社が協力会社の代わりに立て替えた費用を、支払代金から差し引く際に赤伝処理を用いることがあります。また、協力会社との協議と合意が必須であることや、差し引く費用の内容や根拠を見積書や契約書面に明示することなどが、建設業法に定められています。
一般的な返品処理との違い
赤伝と返品伝票は混同されやすいですが、明確な違いがあります。返品伝票は、実際に商品やサービスが返品された場合に発行される伝票です。一方、赤伝は返品の有無にかかわらず、記入ミスや金額の誤りを修正するというように、既存の伝票を取り消すために発行されます。返品伝票は商品が戻ってきた記録が目的なのに対し、赤伝は過去の伝票を取り消すための手段です。
建設業で赤伝処理が必要になる場面
建設業では、主に次の2つの場面で赤伝処理が必要になります。
下請代金から諸経費を差し引くとき
元請会社が協力会社の代わりに立て替えた費用を、支払代金から差し引く際に赤伝処理が行われます。具体的には、安全衛生保護具などの費用、振込手数料、建設副産物の運搬処理費用、駐車場代や安全協力会費などが該当します。協力会社への支払い時に、立て替えた費用分を赤伝処理で差し引くことで、実際の支払額を調整します。
伝票の記入ミスを訂正するとき
請求書や支払伝票に金額の誤りや計算ミスがあった場合にも、赤伝処理が必要になります。赤伝は処理が完了した伝票を取り消す際に発行される取り消し伝票です。伝票に誤りがあった場合、赤伝処理によって誤った取引の記録をキャンセルし、正しい内容で再度記録することができます。日付が変わって処理が完了している場合も、赤伝の作成が必要です。
建設業法で定められた赤伝処理のルール
建設業における赤伝処理は、建設業法によって厳格なルールが定められています。
建設業法における赤伝処理の位置づけ
赤伝処理については、建設業法第18条、第19条、第19条の3、第20条第4項で定められています。たとえば、元請会社が協力会社への支払代金から費用を差し引く場合には、一定の要件を満たす必要があるとしています。
また、協力会社に不当な不利益を与えないよう、元請会社による一方的な代金減額も禁止しています。赤伝処理を行う際には、法令にもとづいた適正な手続きが必要です。
※参考:建設業法令遵守ガイドライン(第11版)|国土交通省不動産・建設経済局建設業課
見積書・契約書面への明示が必要な理由
建設業法では、下請代金から費用を差し引く場合、必ず見積書や契約書面に差し引く費用の項目、金額、算定方法を明記することが求められています。これは、事前に差し引かれる費用の内容と金額を把握し、納得した上で契約を締結できるよう、協力会社の権利を保護するためのものです。
法令違反になる赤伝処理パターン
適切な手続きを踏まずに赤伝処理を行った場合、建設業法違反となる可能性があります。法令違反となる、主な3つのケースを解説します。
事前協議なしで費用を差し引くケース
協力会社との事前協議や合意を得ずに、一方的に赤伝処理で費用を差し引くことは建設業法違反となります。たとえ元請会社が費用を立て替えていたとしても、契約前や工事着手前に協力会社と協議し、差し引きについて合意を得ておく必要があります。工事が終わった後や請求書が発行された後に、突然費用を差し引く旨を通知しても、不当な代金減額とみなされます。
算定根拠が曖昧な費用を差し引くケース
元請会社の販売促進が目的の協力費など、差し引く根拠が明瞭でない費用を支払代金から差し引く行為は建設業法違反となります。また、建設副産物が発生していない工事であるにもかかわらず、処理費用という名目で一定額を代金から差し引くことも同様に違法です。こうした行為は、請負契約に関する不誠実な行為に該当する恐れがあります。
実費を超える金額を請求するケース
元請会社が工事のために確保した駐車場や宿舎を協力会社に使用させる際、使用料として実際にかかる費用より大きな金額を差し引く行為は建設業法違反となります。また、元請会社と協力会社の責任および費用負担を明確にしないまま、やり直し工事を別会社に依頼し、その費用を一方的に代金から減額して協力会社に負担させる行為も違法です。
赤伝処理を適切に行うための流れと実務ステップ
建設業法に則った赤伝処理を行うためには、段階的な手順を踏む必要があります。
協力会社との事前協議で合意すべき項目
赤伝処理を行う際には、元請会社と協力会社の双方による協議と合意が必須です。事前協議では、差し引き対象となる費用の種類と内容、金額の算定方法と根拠を明らかにし、協力会社と十分に協議を行う必要があります。ほかにも、支払時期や清算方法、関連する書類の取り扱いなどについても十分に確認し合いましょう。
見積書・契約書面への具体的な記載方法
協議で合意した内容は、契約書と見積書の両方に明記することが求められます。工事の内容や差し引き対象となる費用の具体的な内容、算定方法・単価、支払時期・方法、その他の特記事項などを文書に明確化します。追加工事による追加・変更契約の際も、施工前に必ず書面を交わし、口頭のみの契約は避けましょう。
費用の算定根拠を明確にする書類の準備
差し引き額の算定には、市場価格にもとづく適正な単価設定、実費にもとづく清算金額の算出、計算過程の明確な記録といった合理的な方法が求められます。トラブルを未然に防ぐためにも、見積条件や見積内容、担当区分などを細かく分けておきましょう。
書類の作成・整備・保管のルール
赤伝処理に伴う各種書類は、正確に作成して、適切に管理することが重要になります。保管すべき主な書類は、事前協議の議事録、見積書および契約書の控え、費用算定の根拠資料、支払関連の証憑書類などです。契約変更や項目の追加が生じた際も、最新版と以前の契約書が混在しないよう、注意が必要です。
赤伝処理のトラブル予防策
赤伝処理に関するトラブルを未然に防ぐための、主な2つの取り組みを解説します。
協力会社との関係悪化を防ぐポイント
赤伝処理は、協力会社に費用負担を求める合理的な理由があるものについてのみ、合意のもと行えます。差し引き金額の算定根拠や使用用途などを明らかにして、十分に協議することが重要です。また、駐車場代といった書面化義務のない費用も、赤伝処理に関するものは記録に残すのが望ましいです。
工事管理システムにおける赤伝処理の効率化
赤伝処理を効率化し、ミスを減らすためには、工事管理システムの活用が効果的です。計算や伝票の発行・管理を自動化すると、人的ミスを最小限に抑えられるため、法令違反のリスクを減らすことにもつながります。さらに、会計業務全般を効率化・省人化でき、経理部門の人件費削減もできます。
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建設業における赤伝処理を適正かつ効率的に行うなら、「ANDPAD引合粗利管理」の活用が効果的です。見積作成から実行予算、受発注、請求・支払まで一元管理できるため、記入ミスや金額の誤りを早期に発見でき、赤伝処理を未然に防げます。
毎月の請求・支払の管理や入金予定の消込といった情報を社内共有できる経理機能により、煩雑なチェック作業を削減します。また、電子帳簿保存法や建設業法などの関連法令に対応しており、赤伝処理に関する書類を改ざんできない形式で適切に保存できるため、法令順守の徹底にも役立ちます。
まとめ
赤伝処理は、すでに発行した伝票を取り消すために使われる会計処理の方法です。建設業では、協力会社に支払う代金から諸経費を差し引く際や、伝票の記入ミスを訂正する際に使用されます。事前協議なしでの差し引き、算定根拠が曖昧な費用の差し引き、実費を超える金額の請求などは、いずれも違法行為に該当する可能性があるため注意が必要です。
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