経審は正式には経営事項審査と呼ばれ、公共工事の入札を目指す建設業者には避けては通れないものです。ただし、具体的な内容や高得点を得る方法が分からない人も多いでしょう。この記事では、経審の基本情報から、評定を上げる方法まで解説します。業務で経審に関わる人はご覧ください。
建設業の経審(経営事項審査)とは?
経審とは「経営事項審査」の略称で、公共工事の入札に参加する建設業者の経営力または施工能力などを第三者的に計る制度です。国土交通大臣や都道府県知事が実施します。実施する目的は、公共工事の適切な施工を確保し、健全な建設業界の発展を促進することです。
経審は第三者的に建設業者の能力を計れる指標のため、国・地方自治体の発注者が適切な業者を選定する際の入札参加資格の審査に活用されます。
経審を受けるメリット・目的
経審を受けるメリットはおもに3つあります。1つ目は、国や地方公共団体が発注する公共工事の競争入札への参加資格を得られることです。建設業界での信頼獲得にもつながります。
2つ目は、入札参加資格者登録されるため自社の存在や実績をアピールできる点です。経審は指標として広く認知されているため、民間工事の受注に関しても発注者からの信頼を得やすくなります。3つ目は、経審は第三者機関が審査するため、自社の経営状況を第三者的に把握できる点です。
経審の審査の流れ
経審を申請する場合に何が必要でどのような流れで進むのか、3つに分けて解説します。
決算変更届の提出
決算変更届とは、建設業者が毎事業年度終了後に提出しなければならない書類です。提出することで、最新の経営状況を許可行政庁へと報告します。
決算変更届に必要な書類は、変更届出書・工事経歴書・直前3年の工事施工金額・財務諸表・納税証明書・事業報告書です。また、使用人数・建設業法施行令第3条に規定する使用人の一覧表・定款・社会保険への加入状況が必要です。決算日後、税務申告を終えたのち管轄の行政府へ提出します。提出期限は原則として、決算日から4か月以内です。
経営状況分析申請
決算書類が整ったのち、経営状況分析申請へと進みます。経営状況分析申請とは、建設業者の財務諸表をもとに経営状態を第三者的に計り、分析経営状況評点を算出するための申請です。国土交通大臣の登録を受けた経営状況分析機関が分析します。
申請の際に必要な書類は、経営状況分析申請書・財務諸表・当期減価償却実施額が分かる税務申告書別表などです。申請から分析結果通知書を受け取るまでは、数日から1週間程度を要します。
参考:経営状況分析の申請に必要な提出書類|一般財団法人 建設業情報管理センター
経営規模等評価申請
続いて、許可行政庁で経営規模評価申請をします。この申請によって総合評定値の構成要素のうち、分析経営状況評点以外のすべての要素が評価されます。具体的には、完成工事高や技術職員数・労働福祉の状況・安全衛生管理の状況・建設機械の保有状況などです。
申請には、経営規模等評価申請書・総合評定値請求書・工事種類別完成工事高・その他の審査項目・技術職員名簿・経営状況分析結果通知書の原本などが必要です。
参考:経営規模等評価申請・総合評定値請求の手引き (経営事項審査)|国土交通省近畿地方整備局
経審にかかる費用と有効期限
経審にかかる費用はいくつかあり、おもに3種類です。まず、国土交通大臣の登録を受けた機関への経営状況分析手数料として、分析機関によって多少異なりますが、1万3,000円程度がかかります。
次に、経営事項審査手数料として、1業種につき1万1,000円程度が必要です。2業種目以降は2,500円程度ずつ加算されます。ただし、申請する建設工事の業種の数によって金額は変動します。最後に、行政書士に依頼する場合は、事務所によって異なりますが、報酬として15万円以上がかかる場合がほとんどです。
有効期限は審査基準日から1年7か月間であり、継続には期限前に次年度の結果通知書を提出する必要があります。
参考:料金プランのご案内 – 経営状況分析のご案内|CIIC 一般財団法人 建設業情報管理センター
参考:経営事項審査申請説明書|東京都都市整備局
参考:報酬額表 ※ 主な報酬の目安です。 – 行政書士北條健事務所
参考:経営事項審査と経営状況分析 – 許可・経審制度の概要|CIIC 一般財団法人 建設業情報管理センター
経審の点数計算方法
経審における総合評定値(P)は、5つの評価要素によって構成されています。完成工事高評点(X1)・経営規模評点(X2)・経営状況評点(Y)・技術力評点(Z)・社会性等評点(W)の5つを合算して、総合評定値(P)を算出します。総合評定値(P)の算出式は以下の通りです。
- P=(0.25×X1)+(0.15×X2)+(0.2×Y)+(0.25×Z)+(0.15×W)
完成工事高評点X1
完成工事高評点X1とは、申請者の完成工事高を計る指標です。直前2年間もしくは3年間の完成工事高の年間平均を基準に算出します。つまり、完成工事高が高いほど高得点になります。また、内容によっては業種の完成工事高をほかの業種の完成工事高へと積み上げ、申請することで評点アップに繋げることが可能です。
完成工事高が多いと高得点になる反面、急激な売上拡大はリスクが生じます。そのため、自社の経営資源や技術力を考慮し、工事代金の回収状況や利益率も管理しましょう。
経営規模評点X2
経営規模評点X2の算出方法は、以下の通りです。
- 経営規模評点X2=(自己資本額点数+平均利益額点数)/2
自己資本額とは貸借対照表上の純資産の合計で、2年平均するか否かを選択できます。自己資本額点数は0.1億円未満から3,000億円以上まで、47の区分が設定されています。自己資本額は計画性を持ち、利益の内部留保や増資などにより強化できます。
経営状況評点Y
経営状況評点Yとは、財務内容を計る指標です。算出方法は以下の通りです。
- 経営状況評点Y=167.3×A(経営状況点数)+583
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表をもとに、詳細に財務分析を実施します。また、負債抵抗力・収益性と効率性・財務健全性・絶対的力量の4つの観点から、各2指標ずつ、合計8つの財務指標を用いて算出します。
なお、8つの指標は以下の通りです。
- 純支払利息比率
- 負債回転期間
- 総資本売上総利益率
- 売上高経常利益率
- 自己資本対固定資産比率
- 自己資本比率
- 営業キャッシュフロー
- 利益剰余金
技術力評点Z
技術力評点Zとは、技術力を審査する評点です。算出方法は以下の通りです。
- 技術力評点Z=((技術職員数点数Z1×4)+元請完工高点数Z2)/5
技術者の資格と元請完工高をもとに、業種区分ごとに評点を算出します。また、技術職員点数とは資格区分によって数値を出し、算出テーブルに当てはめます。1級監理技術者(G1・6点)・1級技術者(G2・5点)・監理技術者補佐(G3・4点)・基幹技能者(G4・3点)・2級技術者(G5・2点)・その他技術者(G6・1点)の人数によって決定します。
社会性等評点W
社会性等評点Wは、企業の社会的な責任や法令遵守の状況などを計る指標です。算出方法は以下の通りです。
- その他の評点W=(担い手の育成及び確保に関する取組の状況W1+営業継続点数W2+防災協定点数W3+法令遵守点数W4+建設業経理点数W5+研究開発点数W6+建設機械保有点数W7+国又は国際標準化機構が定めた規格による登録状況W8)×(1,750/200)
経審の評定(点数)を上げる方法
経審の申請をする企業の多くは、評定の向上を重視しています。どのような方法によって評点を上げられるか解説します。
完成工事高の配分を工夫する(X点)
完成工事高評点X1・経営規模評点X2を向上させるには「工事進行基準」を用いて、完成工事高の配分を工夫する方法があります。通常は「工事完成基準」を用いて完成時に収益として計上しますが、工事進行基準であれば工事の進行状況に合わせて完成工事高を計上できます。
結果として審査年度の完成工事高が安定し、評点に影響することがあります。ただし、会計基準の選択は適正な会計処理を前提とする必要があります。また、完成工事高の内容によっては、適切な業種区分で計上することで評価が変わる場合があります(業種間振替)。工事内容に応じた正しい区分を行うことで、結果的に評点が適切に反映されます。
財務体質を改善する(Y点)
経営状況評点Yを向上させるには、財務体質の改善が欠かせません。利益を追求して利益率を上げるだけでなく、自己資本比率も向上や、適切な負債のバランスの維持が有効です。財務体質を改善するには、自己資本を増やし負債を減らす、営業利益率や売上高経常利益率を改善する、キャッシュフローを健全化するなど、財務基盤の強化を図る方法が挙げられます。
技術者の育成と資格取得支援をする(Z点)
技術力評点Zを上げるには、技術者の育成が必要です。具体的には、以下の取り組みが挙げられます。
- 技術者の資格取得を促進し、1級・2級施工管理技士をはじめとする国家資格者を増やす取り組みを行う
- 1級施工管理技士・1級建築士の監理技術者講習を受講させる
- 元請工事の比率を高める
施工管理技士や1級建築士など国家資格保有者が多いほどZ点が上がるため、人材育成を強化しましょう。
複数の取り組みを実施する(W点)
社会性等評点Wは加点項目が多く、評定を上げるには複数の取り組みが求められます。たとえば、社会保険に加入し退職金制度を整備したり、防災協定を締結し地域貢献活動を強化したり、違反を防ぐために法令遵守を徹底したりすると有効です。また、比較的取り組みやすい資格として、加点につながる建設業経理士2級を取得する方法もあります。
まとめ
経審(経営事項審査)とは、公共工事の入札に参加する建設業者を第三者的に評価する制度です。入札参加資格の審査にも活用されています。経審でよい評定を得るにはあらかじめ流れを把握し、評定を高める方法を知っておくことが重要です。
経審を申請し評定を高めるには、日常的な経営管理の改善が重要です。結果として評点が向上し、入札時のアピールにもつながります。日々の現場管理や工事管理を効率化するには、クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD(アンドパッド)」がおすすめです。シェアNo.1サービスとして、業種を問わず数多くの企業・ユーザーに利用されています。手厚いサポートも特長です。ぜひご検討ください。


