近年の建設業界において、悩みの種の1つが、建設費の高騰です。この記事では、建設業界や建設費高騰の現状、高騰の幅、労務コスト・資材コストが高騰している理由などを解説します。高騰している理由を知り、自社の活動に活かしたいと考えている人は参考にしてください。
建設業界の現状
建設投資額をみると、2010年度以降は上昇が続いています。建設投資額とは、建設業界や建設プロジェクトによる投資額の総額を示すものです。2022年度は67兆円を記録し、民間の建設投資額は2022年度も上昇しています。2023年度は見込み額ですが、70兆円を超えると予想されています。
参考:令和5年度(2023年度) 建設投資見通し 概要|国土交通省
建設費高騰の現状
2015年の平均を100とすると、2022年には120を超えています。建設費は、東日本大震災後の復興需要や東京オリンピックの需要増などによって、2013年頃から上昇が続き、2020年頃に一時下がったものの、2021年から再び上昇を続けています。
なかでも、2021年後半からは、木材需要の急激な高まりである「ウッドショック」によって、木造住宅の工事費が大きく上昇しました。
建設費はどれくらい高騰している?
建設費はおおまかに、労務コスト(労務費)と資材コスト(材料費)の2つに分けられます。現在、上昇しているのは、それぞれ異なる要因によるものです。それぞれの費用の内訳と、上昇の要因を解説します。
労務コスト
労務コストとは、人件費や社会保険料など、労働者に対してかかる費用です。2021年3月と2024年3月を比較すると、公共工事設計労務単価が約15%上昇しました。公共工事設計労務単価とは、建設技能者の賃金相当として積算されるものです。仮に建設コスト全体のうち労務コストが30%だとすると、労務コストの上昇によって建設コストは約4.5%上昇しています。
参考:令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価について|国土交通省
資材コスト
資材コストとは、建設に必要な資材や設備、機器などの購入にかかる費用です。2021年度の平均と2024年3月を比較すると、建築・土木総合における資材コストの上昇率は、全国平均で約18%です。資材コストは、労務コスト以上に急激に高騰しています。
仮に、建設コスト全体のうち材料費が60%だとすると、資材コストの上昇によって、建設コストの上昇率は約10%です。仮設費や経費などを除き、建設コストは約3年間で約15%上昇していることになります。
参考:建設資材価格指数|一般財団法人 経済調査会 オフィシャルサイト
労務コストが高騰している原因
労務コストは、なぜ高騰しているのでしょうか。人手不足と2024年問題、法定福利費の適正化の3つの原因を解説します。
人手不足
労務コストが上昇する要因の1つは、人手不足です。建設業界を選ぶ若い人が減り、労働者の高齢化が進んでいます。労働者が徐々に少なくなる一方で、職人の需要が高くなっているため、労務コストが高騰しています。
具体的には、国土交通省発表の公共工事設計労務単価は、2013年の1万5,175円から2023年には2万2,227円へと、45%以上の上昇率です。また、人手不足の影響で工期が長くなり、コストの上昇につながっています。
参考:令和5年3月から適用する公共工事設計労務単価について|国土交通省
2024年問題
「2024年問題」とは、働き方改革による残業の上限規制が施行されたことです。建設業界は5年の猶予期間がありましたが、2024年4月に適用されました。これまで建設業界は労働時間や休日労働の多い業種とされ、イメージの低下から若い人の就労が減少していました。
良くないイメージの脱却が期待されますが、残業の上限規制によって、現在は労務コストの上昇につながっています。また、残業が規制され工期が伸びると、仮設費も増加します。
法定福利費の適正化
法定福利費とは、建設会社が負担する従業員の保険料です。法定福利費は、企業ごとに金額を変更したり、加入しない判断をしたりはできません。
保険に加入していない従業員は、現場への入場が認められない取り扱いが求められ、対策が強化されています。また、2017年に請負代金内訳書に法定福利費を明示するよう、ガイドラインで示され、元請企業は遵守するよう定められました。労働環境の改善が進んでいることで、労務コストの上昇につながっています。
資材コストが高騰している原因
資材コストの高騰は、輸送コストと新型コロナウイルス、ウクライナ問題も原因となっています。それぞれについて解説します。
輸送コストの上昇
建築資材の輸送コストも上昇しています。建築資材の輸送は船やトラックなどを使用するため、燃料として石油を消費します。ウクライナ問題によって、原油価格は高値が続いており、下がる見通しは立っていません。
新型コロナウイルスの影響
2020年から流行した、新型コロナウイルスの影響です。建設業界においては、新型コロナウイルスを起点として、ウッドショックが起こりました。
ウッドショックとは、コロナ禍から回復する過程でアメリカや欧州、中国などで郊外に住宅を建てる人や住宅を求める人が増え、世界的に木材価格が高騰した現象です。ウッドショックに加えて、世界的なコンテナ不足も木材価格上昇につながりました。
ウクライナ問題の影響
2022年から起こった、ウクライナ問題の影響です。ロシアとウクライナによる紛争によって、両国の経済活動が停滞しており、建設資材の高騰につながっています。
ロシアは世界有数のエネルギー資源の生産国で、天然ガス・石油などの価格高騰につながり、輸送費のコストが上昇しています。ウクライナは鉄鋼や木材の輸出国で、供給に影響が出ているため、資材コストの上昇が防げません。
円安の影響
円安が続いていることによる影響を受けて、輸入建築資材の価格が高騰しています。日本では、多くの建築資材を輸入しているため、円安が進むと資材コストが上昇します。加えて、ガソリン代や電気料金も上昇傾向です。その影響で、資材を加工する工場の電気代や輸送費の上昇という影響があります。
建設費の高騰が建設業界に与える影響
建設費の高騰は、建設業界にさまざまな影響を与えています。はじめに影響があるのは、ゼネコンや開発会社をはじめ、各建設会社の利益率低下です。極力建設費が上昇しないよう努力することで、価格競争が激化し、建設業界全体の収益低下につながります。
また、価格競争で補いきれないほど建設費が高騰すると、売値が上昇し購入者の購買意欲が低下することで、業界全体の売上低迷につながる可能性もあります。
建設費の今後の予想
今後も、建設費が下がる気配はありません。むしろ、需要が低迷しない限りは、建設費の上昇は続く可能性が高いでしょう。建設費の高騰には人手不足が影響しており、短期間で解決できる問題ではないためです。
ただし、急激なコストの高騰は、新型コロナウイルスやウクライナ問題などが影響しています。これらの問題が解決するにつれて、これ以上の急激な上昇はなくなるとも考えられます。
建設費を少しでも抑える方法
建設費高騰の原因は分かったものの、建設費を少しでも抑えたいと考える人は多いでしょう。2つの方法を解説します。
業務効率化が可能なシステムの導入
業務効率化システムを導入する方法です。建設会社の業務を、ITやデジタルの技術によって効率化できます。生産性が向上することで、労務費の削減につながるでしょう。また、人的ミスを減らせます。
下記では、業務効率化を実現するための4つの手段について紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:施工管理業務を効率化する手段 4選
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まとめ
建設費は2015年の平均を100とすると、2022年には120を超えています。建設費は労務コストと資材コストから成り立ち、どちらも高騰しています。労務コストの高騰は人手不足、2024年問題、法定福利費の適正化がおもな原因です。資材コストの高騰は輸送コストの上昇、新型コロナウイルスやウクライナ問題の影響がおもな原因となっています。
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