個別原価計算とは、プロジェクトや製品といった単位で原価を計算する方法です。システム開発やWebサイト制作など、内容や成果が一定ではなく状況によって変わる案件で用いられます。
この記事では、個別原価計算の概要や計算方法の他、総合原価計算との相違点について解説します。案件の原価や利益などと関係する業務に携わる方は、参考にしてみてください。
個別原価計算に欠かせない「原価」の概要
個別原価計算を実施するためには、名前にある通り原価の把握が欠かせません。原価とは、商品やサービスを提供するために必要なお金を指します。
原価の把握が必要とされる理由は多岐に渡りますが、主な理由は製品・サービスなどの販売価格の決定や原価管理をするためです。販売価格は、原価を基準として得たい収益の規模を参考に決定する他、原価管理による企業の損益の把握も重要です。
また、会社の損益や財務状を表す財務諸表を作成するのにも、原価の把握は必須とされます。かかったコストが分からなれば、売上を計算できないからです。
個別原価計算とは?
個別原価計算とは、原価を導き出す方法の1つです。プロジェクトや製品といった単位で区切り、それぞれの内容に合わせて個別に原価を計算します。
個別原価計算の特徴は、実際の原価に近い数字が分かるため、損益分岐点を把握しやすいことです。顧客の注文内容によって仕様や規格が異なる、受注生産・オーダーメイドのケースで用いられます。
個別原価計算を用いる業種
個別計算が用いられる業種の多くは、生産する製品や提供するサービスの内容が一定ではなく、個別に仕様や規格が異なります。
具体的には、下記のような業種が当てはまります。
- 広告
- Web制作
- システム開発
- 士業
- コンサルティング
- イベント
共通している特徴は、量は少ないが種類は多いという点です。例えば、広告・Web制作はクライアントごとに成果物の目的が異なるため、それぞれに適した内容にする必要があります。
個別原価計算のメリット
個別原価計算を活用すると複数のメリットを得られます。その内の1つが、実際の原価に近い数字を把握できることです。
製品やサービスの原価が正確に分かれば損益分岐点が明確になるため、利益や赤字がどの程度かも把握しやすくなります。さらに、個別で原価を把握できる性質上、それぞれの利益率も分かるためピンポイントで改善が狙えます。
個別原価計算はリアルタイムで数値が出るので、利益の予想や赤字に対する対策を迅速に行えることもメリットです。経験やノウハウが蓄積するスピードが早くなれば、他のプロジェクトや生産の見積もりをする際の精度が高くなるでしょう。
個別原価計算のデメリット
個別原価計算のデメリットとして挙げられるのが、原価を導き出すのに時間と手間がかかることです。
個別原価計算を計算するためには、製品やサービスなどデータを個別に集める必要があります。そのため、オーダーメイドや受注生産をしている企業は、集めるべきデータが多岐に渡ってしまいます。
集計している間は他の業務を進められないため生産性が下がる他、別途で人員が必要になって人件費が高くなる要因になるのもデメリットです。
個別原価計算と似ている「総合原価計算」とは?
個別原価計算と似た手法として、総合原価計算があります。総合原価計算とは、一定期間に製造された1製品の総製造原価を、総生産量で割って平均製造原価を算出する手法です。
そのため、一定の規格や仕様に沿った物を大量生産しているなど、量は多いが種類は少ないという業種に合っています。一般的には製紙業や製鉄業などで用いられています。
1日の販売可能数量や販売目標数量を設定したら、その設定を基準に計算できるため、計算に時間や手間がかかりにくいのも利点です。
個別原価計算と総合原価計算の違い
個別原価計算と総合原価計算は、それぞれ特徴や利点が異なります。ここからは、それぞれ相違点と詳細について解説します。
生産形態が違う
個別原価計算と総合原価計算の相違点は、向いている生産形態が違うことです。個別原価計算は、クライアントの注文内容に合わせて作る個別受注生産方式や、特定の目的に合わせて製品を作る多品種少量生産方式が向いています。
総合原価計算は、製造や提供する側の目標や設定に沿って、一定の仕様・規格の製品やサービスを大量生産するのに適しています。
それぞれの適している生産形態の特徴や方向性が真逆なので、自社の事業形態や目的に合致する計算方法を採用しなければいけません。
分類基準が違う
分類基準についても、個別原価計算と総合原価計算で異なる点です。個別原価計算は、プロジェクトや製品それぞれで内容が異なるため、個別の単位で原価計算をします。
総合原価計算は、一定期間(1か月)の間に使われた生産費用を生産個数で割り、それぞれの製品の原価を算出する方法です。個別原価計算と異なり、個別ではなく一括で計算します。
適している業種が違う
個別原価計算と総合原価計算は、使用するのに適している業種も違います。個別原価計算が適している業種は、システム開発や広告業、コンサルティングや士業、イベント業などです。これらの業種は案件によって仕様や内容が異なり、一律で原価を求めることが難しいからです。
総合原価計算の場合、製紙業や製鉄業、電気製品や食品などの製造業に向いています。製造業は、一定の規格や仕様の製品を連続的かつ反復的に生産し続けるので、1つにまとめても正確性の高い原価を導き出せるからです。
計算方法が違う
個別原価計算と総合原価計算の違いとして挙げられるのが計算方法です。個別原価計算は、原価を特徴や性質ごとに分類してから直接費と間接費を算出した後、さらにプロジェクトや部門別に割り振る方法で計算します。
総合原価計算の計算方法は個別原価計算よりも簡単です。一定期間の間に生産した製品という単位で総製造原価を総生産量で割り、1単位ごとの平均製造原価を算出します。
個別原価計算の計算方法
個別原価計算の計算方法について解説します。具体的な手順とそれぞれの詳細は下記の通りです。
1. 費目別に原価を集計する
個別原価計算で最初に行うのが、費目別に原価を集計することです。まず、プロジェクトや製品などにかかった原価は、材料費・外注費、労務費、経費の3種類に分けられます。原価を3種類の費目に分類できたら、それらの原価が直接費か間接費を判断します。
プロジェクトや製品などと関係性が深い物は直接費に分類し、関係性が浅い物は間接費に分類しましょう。直接費は個別で内容が変わってきますが、間接費は管理部門の労務費、家賃や光熱費など、ある程度共通します。
2. 集計した原価を部門別に振り分ける
費目別に原価を集計したら、集計した原価を部門別に振り分けましょう。生産における部門は2種類あり、プロジェクトに直接携わるデザイン部門と、人事や労務など裏方で支える管理部門です。
最初に算出した間接費は、デザイン部門と管理部門のどちらにも振り分ける必要があります。そして、管理部門へ振り分けされた費用は一定の基準のもとデザイン部門に配賦します。
配賦とは?
配賦とは、複数の製品や部署にまたがっている費用を一定の基準で振り分ける考え方です。一部の部署に費用負担が集中するのを防いだり、企業全体として利益や費用について意識させたりするために用いられます。
配賦の実施により正確な原価計算ができれば、コスト削減による利益率の改善や精度の高い戦略の立案に繋がります。
3. 部門別の原価を製品別に振り分ける
最後に行うのが、製品やプロジェクトごとに部門別の原価を振り分けることです。2番目の手順で製造部門へ振り分けた費用を、製品やプロジェクトに一定の配賦基準で配賦していきます。なお、配賦基準は、各製品やプロジェクトの生産時間比などが代表的です。
そして、最初の段階で直接費になった物と、製品やプロジェクトごとに配賦された間接費を集計すると、個別原価の算出できます。
原価の把握には専用ツールの活用がおすすめ
原価を把握するための手段はさまざまな種類があり、計算方法によっては必要な情報が多かったり、手順が複雑だったりします。多くのリソースを割く必要があり、普段の業務を圧迫しかねません。
また、建設現場では口頭発注による追加工事や資材発注が発生しやすく、各案件の原価を把握することは難しいのが実情です。
原価の把握に適した専用ツールANDPADでは、テンプレートや過去データによる見積もり精度の向上機能や、案件における工事原価をリアルタイムに把握できる機能などを備えています。このようなツールを導入することで、正確な原価管理と個別原価計算に貢献できるでしょう。
下記では、利益率を高める原価管理システムの選定ポイントについても解説しています。
関連記事:建設業の工事原価管理とは|利益率を高める原価管理システムの選定ポイントも解説
まとめ
個別原価計算は、実際の原価に近い数字が分かるのが利点です。ただし、実施するのに必要な情報が多かったり、手順や計算方法が複雑だったりと、ある程度の知識が要求される計算方法です。担当者の経験が浅いと、多くのリソースを割くことになり、業務を圧迫してしまうかもしれません。
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