設備保全の現場では、これまで定期点検を中心とした保全が当たり前とされてきました。
しかし近年、点検したばかりなのに故障する、止められない設備が増えている、ベテランの勘に頼る保全が限界にきていると感じる場面も増えているのではないでしょうか。
こうした課題の中で注目されているのが、設備の状態を見て判断する保全手法であるCBM(状態基準保全)です。
本記事では、CBM(状態基準保全)とは何かという基本から、従来の定期点検との違い、現場で無理なく進める考え方までを、詳しく解説します。
CBMとは設備の状態を見て判断する保全
CBM(状態基準保全)とは、機械が発する「いつもと違う」という信号をキャッチし、故障の予兆が見えたタイミングでメンテナンスを行う手法です。
従来の保全は、部品がまだ使える状態であっても、あらかじめ決めた期間が来れば交換するTBM(時間基準保全)が主流でした。しかし、この方法では予備部品の費用や作業工数が無駄になるだけでなく、点検のために本来正常だった箇所まで分解することで、かえって新たな不具合を招いてしまうリスクも伴います。
CBM(状態基準保全)は、機械の健康状態をセンサーなどで常に、あるいは定期的に監視します。「今はまだ大丈夫」「そろそろ手を打つべき」という判断をデータにもとづいて行うため、メンテナンスの回数を最適化し、突発的な故障を未然に防ぐことが可能になるでしょう。
なぜ今従来の定期点検だけでは限界なのか
日本の製造現場は今、ベテランの引退、機械の長寿命化、そして厳しいコスト削減という大きな課題に直面しています。
従来の「壊れる前に決まった期間で替える」やり方は、一定の安心感はあるものの、まだ使える部品を捨てる無駄や、点検と点検の間に起きる予期せぬ故障を完全には防げません。
こうした背景から、勘や経験、あるいはカレンダー任せの管理から、客観的なデータで機械を守るスマートな保全への転換が急務となっています。
設備を止められない現場が増えている
現在の生産現場において、計画外の停止はもちろん、点検のための計画停止そのものが経営上の大きな損失に直結するようになっています。
たとえば、生産ラインが1時間止まるだけで、何百万円単位の損害が出る現場も珍しくありません。
とくに社会インフラや基幹設備など、24時間365日の稼働が前提となっている施設では、一度の停止が周囲に与える影響は甚大です。
そのため、異常がないのであれば、できる限り動かし続けたいというのが現場の本音でしょう。だからこそ、まずは故障した際の影響が大きい重要設備から優先的にCBM(状態基準保全)を導入し、停止リスクを最小化する戦略が現実的な一歩となります。
決まった時期の点検だけでは対応しきれない
設備が置かれた環境や負荷によって劣化のスピードは異なるため、一律のスケジュール管理では、過剰または不足のどちらかに偏ってしまいます。
たとえば同じ機械でも、フル稼働している場合と予備機として置かれている場合では、消耗具合は違います。それにもかかわらず期間だけで部品を交換するのは、コスト面で非常に効率が悪いといえるでしょう。
機械の本当の消耗具合に合わせて点検のサイクルを柔軟に調整できれば、まだ使える部品を捨てる無駄がなくなります。
また、点検の直後に運悪く故障してしまう「点検のすり抜け」を防ぐ意味でも、機械が発する実際のサインを見極める管理への移行は、現場の安心感とコスト削減を両立させる確かな一手となるでしょう。
人に頼る保全が成り立たなくなっている
ベテランの音や振動で異変を察知する技術を、そのまま次世代に引き継ぐことが困難な時代になっています。
多くの現場は、長年の経験に裏打ちされた職人の勘に支えられてきました。
しかし、少子高齢化で人手不足が深刻化する中、こうした長年の経験から得た感覚的なコツを、時間をかけて若手に引き継いでいくことは難しくなっています。
そこで重要になるのが、誰が見ても状態が分かるメンテナンス時期の可視化です。最新の測定器やセンサーを使えば、個人の感覚に頼らずに客観的な判断が可能になります。
最初は、誰でも扱える簡易的な診断ツールからはじめるだけでも構いません。属人的な管理からデータに基づく管理へと進化させることが、組織の未来を守ることにつながるでしょう。
CBMと他の設備保全方式との違い
設備保全を成功させるポイントは、機械の重要度に合わせて複数の保全方式を使い分けることにあります。
カレンダーなどの時間で区切る点検だけでなく、デジタル技術で機械の調子を捉えるCBM(状態基準保全)などを組み合わせることで、無駄なコストを抑えつつ、防げるはずの故障を確実に回避できます。
ここではCBM(状態基準保全)のほかに、以下の3つの方式について解説しましょう。
- TBM(時間基準保全)
- BDM(事後保全)
- PdM(予知保全)
それぞれの方式には強みと弱みがあるため、特性を理解して自社に最適なバランスを見つけることが大切です。
なお、4つの保全方式については、以下の記事でも紹介していますので、合わせてご覧ください。
関連記事:予防保全とは?4つの種類と事後保全・予知保全など各種保全との違いを解説
TBM(時間基準保全)|決まった時期に点検する
TBMは、機械の調子にかかわらず、カレンダーの日にちや稼働時間で一律に点検や部品交換を行う手法です。
| 特徴 | 定期点検・定期交換が中心で、管理の計画が立てやすい |
| 課題 | 無駄なコストが発生しやすく、点検の合間の故障は防げない |
| CBM(状態基準保全)との違い | 判断の基準が一定期間の時間の経過である |
人間でいう年に一度の定期健診のように、時期が来ればメンテナンスを実施します。
日本の製造現場で一般的に行われてきましたが、まだ十分に使える部品を廃棄してしまう過剰整備になりやすく、部品代や人件費に無駄が生じる点が課題です。
CBM(状態基準保全)との違いは、修理を決めるきっかけが「一定期間の時間の経過」なのか、「機械の実際の劣化状態」なのかという点にあります。
BDM(事後保全)|壊れてから直す
BDMは、機械が機能停止したり、完全に動かなくなったりしてからはじめて修理を行う考え方です。
| 特徴 | メンテナンスの手間を最小限に抑え、部品の寿命を全うできる |
| 課題 | 突発停止による生産ロスが大きく、重要設備には向かない |
CBM(状態基準保全)との違い | 壊れても影響が小さいかどうかが分かれ目 |
事前の点検や監視をせず、設備の寿命を100%使い切る方法といえます。
一見すると消極的な管理に思えますが、電球や安価な予備部品など、壊れても生産ラインが止まらない重要度の低い設備であれば、コストを安く抑えられる選択肢です。
一方で、故障のタイミングを予測できないため、生産に不可欠な機械でこれを行うと、多額の機会損失を招くリスクがあります。ゆえに対象とする設備の選別には、細心の注意が必要です。
PdM(予知保全)|将来の故障を予測する保全
予知保全は、AIや高度なデータ解析を駆使して、将来いつ故障が起きるかを予測する保全の形です。
| 特徴 | データを分析し、故障のカウントダウンを可視化する |
| 課題 | 高度な分析基盤やセンサーの設置が必要となり、初期コストや技術的な難易度が高い |
CBM(状態基準保全)との違い | 導入ハードルが高いため、まずはCBM(状態基準保全)でのデータ蓄積が先決 |
数値を監視するCBM(状態基準保全)をさらに進化させたもので、「あと何時間動かせるか」という残存寿命を算出します。
将来の故障日を特定してピンポイントで部品を手配できるため非常に効率的ですが、導入コストが高く、解析のための専門知識も欠かせません。
いきなりこのレベルを目指すと、データの扱いに苦慮して失敗に終わるリスクも考えられるため、まずは手元の数値を管理するCBM(状態基準保全)からスモールスタートし、徐々にステップアップしていくのがよいでしょう。
CBMの仕組みと判断基準
CBM(状態基準保全)とは、機械が発するわずかなサインを読み取って、メンテナンスのタイミングを判断する仕組みです。
これまでの主流だった固定されたメンテナンス日や稼働時間など、一律に部品を替える方法とは異なり、機械の今の健康状態に合わせて点検をします。
これにより、まだ十分に使える部品を捨ててしまう無駄を抑えつつ、突発的な故障でラインが止まるリスクを最小限に抑えることが可能になるのです。
ここでは具体的に、CBM(状態基準保全)における具体的な判断基準について、2つ解説していきます。
設備の状態をもとに保全判断を行う
機械の健康を正しく判断するには、まず温度・振動・電流といった目に見えない情報を数値として捉えることからはじめます。
これまでベテランが五感で察知していた異変を、データとして客観的に蓄積していく作業です。
たとえば、主要な生産ラインが1時間止まるだけで、多額の損害が出る現場は少なくありません。こうしたリスクを避けるために、まずはセンサーなどで今の状態を詳しく把握し、蓄積されたデータと照らし合わせながら、本当に修理が必要なタイミングを冷静に見極めましょう。
この流れを仕組み化できれば、これまでのなんとなく決まっていた整備周期を、根拠を持って最適化できるようになります。
必要なタイミングでピンポイントに手を打てるため、予備部品の過剰な在庫を抱える必要もなくなり、結果として年間のメンテナンス費用を抑えることにもつながります。
いつもと違う変化を手がかりに点検を決める
修理費用の削減といった直接的な効果だけでなく、現場の心理的な負担が減り、作業の計画性が高まることも大きなメリットです。
いつ壊れるか分からない不安がなくなれば、深夜の緊急呼び出しや休日出勤といった突発的な仕事が減り、落ち着いて次のメンテナンス準備ができるようになるでしょう。
また、これまではベテランの感覚に頼るしかなかった部分が数値で見えるようになるため、経験の浅い担当者でも、なぜ今、整備が必要なのかを周囲に根拠を持って説明しやすくなります。
こうした体制を整えることは、突発的なトラブルに強い組織づくりに直結し、結果として納期遅延を防いで取引先からの信頼を守ることにも結びつくでしょう。
CBM導入に対する投資対効果の考え方
CBM(状態基準保全)を取り入れる利点は、単に故障を防ぐだけでなく、限られた予算と人手をどこに充てるべきかをはっきり判断できるようになる点にあります。
これまでの保全は、どうしてもカレンダーの予定をこなすことが目的になりがちでした。しかし、機械の状態を基準にする仕組みに変えれば、まだやる必要のない整備を削り、人手を本当に必要な場所に集中させられます。
具体的に、どのような視点でCBM(状態基準保全)導入への投資の価値を判断し、現場の体制を整えていくべきか、2つのポイントで解説します。
停止したときの影響を整理して考える
CBM(状態基準保全)の導入を検討する際は、まずその機械が突然止まったら、どれだけの被害が出るかを洗い出すことが大切です。
機会損失が大きい設備こそ、常に見守る優先順位が高くなります。一方で、安価な部品ですぐに交換でき、予備もあるような機械は、あえて壊れるまで使うほうが合理的な場合もあります。
すべての設備に高額なセンサーをつけるのではなく、止まった際の影響度(生産ライン、安全、納期など)を基準にして、手間をかける設備とあえてかけない設備を仕分けるのが、投資の無駄をなくす第一歩です。
コスト以外の変化にも目を向ける
CBM(状態基準保全)がもたらす効果は、修理費のカットといった目に見える数字だけでなく、現場の働き方を後手に回る対応から先を読んだ準備へ変える点にもあります。
いつ壊れるか分からないという不安がなくなれば、深夜の呼び出しや休日の突発対応に振り回されることが減り、腰を据えて点検や改善業務に向き合えるようになります。
また、ベテランの感覚に頼っていた部分がデータで裏付けられるため、若手でも自信を持って「今、整備が必要です」と周囲に説明できる環境が整います。
こうした土台を築くことは、突発トラブルに強い組織をつくり、納期遅延を防いで取引先との信頼関係を維持することに結びつくでしょう。
CBMを導入するメリット
CBM(状態基準保全)を取り入れるメリットは、機械が発する健康状態のサインを根拠に、メンテナンスの時期を最適化できることです。
従来の保全は、まだ十分に動く部品であっても、あらかじめ決めた期間が来れば一律に交換するやり方が主流でした。
しかし、これでは使えるものを捨てる無駄が生じるだけでなく、余計な分解作業が新たな故障を招くリスクもあります。
機械の今の状態を正しく把握できれば、過剰な整備を抑えつつ、必要な時にだけ手を打つ効率的な管理が実現します。
具体的にどのような変化が現場に起きるのか、3つのポイントで見ていきましょう。
無駄な点検や部品交換が減る
機械の調子がよい間はあえて触らないという選択ができるようになり、部品の寿命を最後まで使い切れます。
これまではカレンダーに基づいた定期点検が中心でしたが、この方法では劣化が進んでいない部品まで一律に廃棄してしまうケースが少なくありませんでした。
CBM(状態基準保全)によってまだ交換しなくて大丈夫という根拠がデータで示されれば、整備の間隔を無理なく延ばせます。
その結果、部品代の節約だけでなく、点検作業の手間も減らせるようになるでしょう。
突然の停止が減り稼働の計画が立てやすくなる
故障の予兆をデータで捉えることで、夜間の緊急呼び出しや休日出勤といった突発的なトラブルを大幅に減少させられます。
主要な生産ラインが1時間止まるだけで多額の損失が出る現場にとって、予期せぬ停止は避けたい事態です。
あらかじめ故障のサインを拾っておけば、部品の手配や作業スタッフの調整を余裕を持って進められるようになります。
壊れてから慌ててなおすのではなく、状況に合わせて計画的になおす運用へシフトすることで、生産スケジュールを乱さない安定した稼働が実現します。
判断基準が共有され属人化を防げる
ベテランの長年の勘を数値で見える化することで、チームの誰もが納得できる根拠を持ってメンテナンスの判断ができるようになります。
熟練者が引退していく中で、特定の個人に判断を頼る属人化は大きなリスクです。異常をグラフや数値で客観的に示せるようになれば、経験の浅い若手でもなぜ今、点検が必要なのかを正しく理解し、迷わず行動できるようになるでしょう。
これは単なる効率化だけでなく、判断の基準をチーム全体で共有し、組織全体の保全レベルを底上げすることにも直結します。
失敗しないCBM導入の進め方
CBM(状態基準保全)を成功させるためには、高価なシステムをいきなり導入するよりも、まずは身近なところから保全の考え方を整理していくのが有効です。
すべての設備を一度にデジタル化しようとすると、現場の負担が増えるばかりで成果が見えにくくなります。まずは対象を絞り、機械の特性に合わせた最適な管理方法を段階的に整えていくことが大切です。
ここでは、 無理なくCBM(状態基準保全)導入を進めるための、4つのステップを解説します。
故障影響が大きい重要設備を優先的に選定する
まずは、その機械が止まったときに工場全体にどれほどの被害が出るかを考え、優先順位をつけましょう。
すべての設備に高価なセンサーをつけるのは、予算も手間もかかり現実的ではありません。さらに、すぐに交換ができて予備もあるような安価な設備は、あえて壊れるまで使い切るほうがコストを抑えられることもあります。
そのため、大規模なラインの心臓部など、止まったら一番困る一台から着手し、成果を確認してから次の機械に導入といった方法が、CBM(状態基準保全)を定着させるための確実な進め方です。
異常検知に適した計測項目とセンサーを決める
次に、機械が発する異変のサインを、振動や温度といった具体的な数値に置き換える作業をしましょう。
センサー選びで失敗しないためには、その設備が壊れるとき、どこに一番変化が出るかという過去のトラブル傾向から逆算して考えることが重要です。
たとえば、モーターなどの回転機器であれば、音やガタつきが数値に出やすい振動に注目するのが一般的です。一方で、低速で動く大きな機械のように、外側からは振動が分かりにくい場合は、モーターに無理な力がかかったときに増える電流の値を見るほうが、内部の異常を早期に察知できます。
このように、どのセンサーが多機能かではなく、過去に起きたトラブルの予兆を、どの数値が一番早く捉えてくれるかという視点で計測項目を特定することが、無駄な投資を避けるための基準となるでしょう。
データを蓄積し適切なメンテナンス基準を設定する
データの計測をはじめたら、次にどこまでが許容範囲で、どこからが異常かという判断の基準値を決める必要があります。
まず、国際的な規格(ISOなど)を一般的な目安にすることは有効ですが、実際には機械の古さや設置されている床の強度、さらには周囲の微振動など、現場ごとの環境に大きく左右されます。
そのため、まずは数か月間、機械が順調に動いているときの数値を記録し、その設備ならではの健康なときの基準を把握することからはじめましょう。
最初から厳密な数字を定めるのは難しいため、まずは普段の数値の2倍になったら注意するといった、現場で判断しやすいシンプルなルールから運用をスタートさせます。
実際の劣化の進み具合を見ながら少しずつ数値を微調整していくことが、誤報に振り回されず、精度の高い管理体制を築くための現実的なアプローチです。
現場運用に合わせて段階的に進める
どれほど優れた計測機器を導入しても、異常の通知が届いたときに、誰が、いつ、どう動くかという運用のルールが決まっていなければ、故障を未然に防ぐことはできません。
新しいシステムが現場の負担を増やすだけになっては、長続きしません。まずは既存の定期点検と並行しながら、データの信頼性を確かめつつ徐々にCBM(状態基準保全)へ移行していくなど、今の現場の動きに合わせた無理のない計画を立てることが重要です。
また、最初の一台で「データのおかげで、故障する前に部品を交換できた」という具体的な成功事例を作ることが、その後のスムーズな展開を左右します。
現場がメリットを実感できれば、組織全体での協力体制も自然と整い、データに基づく保全文化が定着しやすくなるでしょう。
CBMを進める上で押さえておきたいポイント
CBM(状態基準保全)を導入する上で大切なのは、最新のツールを入れること自体を目的にせず、機械の調子に合わせてメンテナンスのやり方を柔軟に変えていく姿勢をもつことです。
これまでの保全はカレンダーの予定通りに動くことが重視されてきましたが、これからは機械が発するサインを正しく読み取り、状況に応じて判断を下す力が求められます。
現場のデジタル化を推進する担当者にとっても、まずは身近なところから着実に実績をつくり、周囲の理解を得ながら進めることが必要となるでしょう。
具体的に、どのような視点を持って取り組むべきか、押さえておくべき3つのポイントを解説します。
CBMの導入と合わせて、保守点検そのものを効率化する具体的な手法についても確認しておくと、よりスムーズに改善を進められます。以下の記事ではそのポイントを詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。
関連記事:保守点検とは?目的・メリット・実施手順から効率化の方法まで徹底解説
すべての設備にCBMを使う必要はない
工場のすべての機械を完璧に見守ろうとすると、かえって費用がかさみ、現場の混乱を招きます。
まずは、万が一止まった際にライン全体が停止し、大きな損失につながるような重要設備に絞って対策をはじめましょう。
たとえば、電球のようにさっきまで点いていたのに、突然プツンと切れるものは、どれだけ事前に入念にチェックしても、切れる瞬間を予測するのは困難です。こうしたものは、無理に見守るよりも、切れたらすぐ換えられるように、予備を買っておくのが一番賢い方法です。
何でもセンサーに頼るのではなく、設備の重要度や壊れ方に合わせて「あえてCBM(状態基準保全)をやらない」という判断を下すことも、無駄なコストを抑えるポイントになります。
センサーや分析はできるところからでよい
高額なシステムをいきなりすべての機械に導入しようとせず、まずは、日々の点検で取っている数字を、紙の束からパソコンやタブレットに打ち込み、横並びのグラフにしてみるだけで十分な効果があります。
大切なのは、その日の点検結果を異常なしで終わらせず、数か月分をひとつなぎの線で見て、先月と比べて数値がじわじわ上がっていないかと変化を追う習慣を作ることです。
たとえば、モーターのような動く機械の不調は、多くの場合、少しずつ増えていく振動に現れます。まずは数万円の持ち運び式振動計を使い、いつもの数値と今日の数値を比べることからはじめてみましょう。
こうした小さな変化に気づく練習を繰り返すことが、結果として、機械の異変をいち早く察知できる強い現場づくりにつながります。
人に頼らないための仕組みづくりが重要
ベテランが長年の経験で感じ取っていたいつもと音が違う、なんとなく嫌な振動がするといった感覚を、誰もが共通して使える数字のルールに置き換えていく作業です。
たとえば、振動の値が普段より2倍に増えたら要注意、3倍になったら点検を計画するといった具体的な数値の目安を設けます。こうすることで、経験の浅い担当者でも、迷うことなく基準を超えたので報告します、と自信を持って動けるようになります。
また、いざ異常が見つかったときに「誰が現場を確認し、誰が最終的な修理の判断を下すのか」という役割分担をあらかじめ決めておくことも欠かせません。
こうした「いつ、誰が、どう動くか」という運用ルールをセットで整えておくことが、現場の混乱を防ぎ、新しい取り組みを形だけで終わらせないための土台となります。
建設時から点検までのデータがつながると保全の判断が変わる
最新の機器を導入する前に、まずは対象となる機械の「過去から現在に至る情報」を整理し、どこに弱点があるのかを見極めることが重要です。
どれほど高度なデジタル技術を使っても、そのベースとなる情報がバラバラでは、正しい判断は下せません。機械がいつ導入され、どのような経過をたどって今に至るのかという情報のつながりをもつことで、はじめてどこを重点的に見守るべきかという管理の焦点が定まります。
この土台づくりが、保全の精度をどう変えていくのか、具体的な2つの視点から解説します。
点検記録を残すだけでも判断の精度は上がる
日々の点検で取っている数字をデジタル化し、グラフとして並べてみるだけでも、機械の不調を察知する力は格段に上がります。
大切なのは、その場の数値を書き留めるだけの「点」の管理から、時間の経過とともに数値がどう動いているかを追う「線」の管理へ変えることです。
たとえば、今の数値が設定した基準値に収まっていたとしても、数か月のグラフを振り返って右肩上がりに数値が増え続けているという傾向が見えれば、それは立派な故障の予兆です。
こうした小さな変化の積み重ねをグラフを通して先読みすることが、突発的な故障による巨額の損失を未然に防ぐための、確実な一歩となります。
建設時の情報があると異常の見え方が変わる
機械が設置された当時の設計図や仕様などの初期データは、現在の劣化具合が「許容範囲なのか、それとも危険なのか」を正しく見極めるための重要な基準になります。
たとえば、配管のつながりや計器の配置を示す図面が実物とズレていると、そもそも異常を捉えるのに最適な場所にセンサーを取りつけることすらできません。まず足元の情報を正確に整理しなおすことが、精度の高い診断を行うための大前提となります。
このように、建設時の記録と日々のメンテナンス情報を分断させず、ひとつの流れとして管理する地道な取り組みこそが、結果として確実な故障対策につながります。
「新品の状態」と「今の状態」を正しく比較できる土台を整えることは、不要な整備を削ぎ落とし、メンテナンス費用を最適化していくための最短ルートといえるでしょう。
まとめ
CBM(状態基準保全)を導入する目的は、最新のデジタル技術を使いこなすことではなく、機械の状態を正しく知り、それにもとづいてメンテナンスを最適化するという判断の仕組みを現場に定着させることにあります。
人手不足やコスト削減が求められる中で、従来の定期点検だけでは防げないトラブルや過剰整備による無駄を解消するには、データの活用が不可欠です。
しかし、いきなりすべてを完璧にデジタル化しようと構える必要はありません。まずはラインの要となる重要設備に絞り、日々の記録をグラフ化して「変化の予兆」を追うことからはじめれば、それは十分に実効性のある一歩となります。
また、単に現在の数値を測るだけでなく、建設時の設計データや過去の点検履歴をひとつの履歴としてつなぎ合わせる視点をもつことも大切です。
新品時の状態と現在のデータを比較し、その推移を俯瞰することで、なぜ今、この作業が必要なのかという根拠が生まれます。
こうした地道な情報の積み重ねこそが、突発的な故障に振り回されない現場をつくり、経営の安定を支える揺るぎない土台となりえるでしょう。


