建設会社が建設工事を施工するにあたって、工事請負契約書を作成し依頼主と契約を交わさなければなりません。工事請負契約書がない建設工事は違法であり、デメリットも多くあります。
この記事では、工事請負契約書の重要性を再確認し、契約書がない建設工事のデメリットについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
工事請負契約書とは
工事請負契約書は、建設工事の重要書類です。ここでは、その概要や役割について解説します。
工事請負契約書の概要
工事請負契約書は、建設会社と建設依頼主が交わさなければならない契約書です。建設会社側に作成義務があり、契約の内容を依頼主に説明し、双方が合意すれば契約を交わします。
工事請負契約書は2通作成し、建設会社と依頼主の双方が保管するのが一般的です。建設工事の大きい小さいは問わず、全ての建設工事に必要な書類でもあります。
そして、工事請負契約を交わす際には、建設会社側が契約書以外にも約款や見積書なども準備します。これらが準備されていなければ、依頼主への説明準備が整わないため、万全の準備を整えて工事請負契約に臨みましょう。
工事請負契約書の役割
工事請負契約書は、単に契約を結ぶだけの書類ではありません。工事請負契約を交わすことで、建設に関するさまざまなトラブルやリスクを回避できる書類でもあります。工事請負契約書の主な役割は主に3つあり、内容は次のとおりです。
- 建設会社と依頼主の請負契約の片務性を回避できる。
- 建設会社と依頼主間の認識違いを回避できる
- 紛争の回避も可能となる
請負契約の片務性とは、契約の当事者のうち片方だけが義務を負うことであり、工事請負契約においては、建設会社が大きな義務を負うことになります。また、適正な工事請負契約書を交わすことにより、建設会社と依頼主の間での認識のズレも少なくなるでしょう。
工事請負契約書がない工事は法律違反
工事請負契約書がない建設工事は、違法工事となります。ここでは、建設業法と民法を照らし合わせながら、建設工事と契約について解説します。
建設業法 第十九条に定められている
建設会社は、建設業法第十九条により、工事を受注する際には、工事請負契約書を作成し契約を交わすことが義務付けられています。工事請負契約書の作成や交付時期は、着工前までです。工事請負契約を交わすことで、請負契約の明確性と正確性を担保できるようになります。適正な契約を交わすことで、依頼主とのトラブルを回避できるため、紛争の防止にもつながるでしょう。
ただし、例外として工事請負契約書を交わさなくてもよいケースもあります。災害時の復旧工事などは、着工前に工事請負契約書の作成が難しくなります。このようなケースでは、無理に工事請負契約書を作成したり、契約を締結したりする必要はありません。災害工事が一段落すれば、法に則って契約を交わすようにしましょう。
民法により契約は成立
建設工事は、工事請負契約書がなくても契約自体は成立します。契約については、民法第五百二十二条により、口約束でも契約の成立が定められているからです。工事請負契約も契約に含められるため、この法律が適用されます。
ただし、民法では契約が成立していたとしても、建設業法では工事請負契約書を義務化しており、契約を交わさない工事は違法となります。理由は、トラブルの回避です。
建設工事は大きな金額での契約が多く、追加変更工事も多いです。着工前に工事請負契約書を依頼主と建設会社が適正に契約を交わすことにより、トラブルを防止できるようになります。
工事請負契約書を交わさない場合のデメリット
工事請負契約書を交わさず着工することには大きなデメリットがあります。ここでは、代表的なデメリットを3つ解説します。
監督処分される
建設工事において、工事請負契約書を作成せず、契約も交わしていない状態で着工すれば建設業法違反となり、違反した建設会社は、監督処分される可能性が高くなります。監督処分とは、行政機関が法律にもとづき規制している行為に対して、違反した場合に発する命令などです。
建設業での具体的な監督処分は、国土交通大臣や都道府県知事からの指導や営業停止処分などです。さらに、再三にわたって違反するなど情状が重いケースでは、建設業の許可が取り消されたり、更新できなかったりする処分もあるため、法律違反には注意が必要です。
そして監督処分が決まれば、処分情報が公表されます。公開された処分情報を取引先や顧客が知れば、信用を失うことになるでしょう。顧客から仕事を受注できなくなったり、取引先から必要な建材を買えなかったりする可能性もあります。
紛争が起こる
請負契約書を交わさないことで、依頼主と建設会社の間で共有すべき情報が異なれば、紛争が起こりやすい状態となります。建設業では1つの契約で大きな金額が動くため、多くの建設会社が無用の紛争を避けるために適正な工事請負契約を交わします。トラブルが話し合いで解決できればよいのですが、裁判となるケースも少なくありません。
他にも注意したいのが工事請負契約書の内容です。契約内容が実際の工事内容と異なっていると、依頼主との意思の食い違いからトラブルに発展し、代金を支払ってもらえないケースに発展するかもしれません。
そうなれば、建設会社が、代金請求のための訴訟を起こさなければならなくなります。裁判では、多大な費用と時間を要するでしょう。そのうえ、工事請負契約書がなかったり、実態と異なる契約内容であったりすれば裁判に負ける可能性があります。
発注者に不信感を与える
建設工事において、工事請負契約書を作成せず契約を交わさない工事は、法令違反であるため、依頼主に不信感を与えます。依頼主が、信用できない建設会社に建設を任せることに不安を感じれば、依頼先を変える可能性が高くなるでしょう。
依頼主は建設物に大金を支払うため、契約を交わさず契約内容も分からないようでは、安心できないのは当然です。建設会社は依頼主から建設工事をキャンセルされても仕方がありません。もし、民法を盾にして裁判を起こしても、勝てる要素はないでしょう。このような状態では、建設会社としての評価が下がるだけでなく、取引先からの信頼もなくなり、新規受注にも影響を与えかねません。
追加変更工事でも工事請負工事は必要?
追加変更工事は、依頼主からの要望により追加したり、変更したりする工事です。建設業法十九条二項により、請負契約の内容を変更する場合は、変更内容を記載した工事請負契約書を作成し、署名押印して相互に交付することが定められています。したがって、追加変更工事が生じれば、変更した工事請負契約書を交付してから追加変更工事を始める必要があります。
しかし、依頼主からの要望は、建設現場で直に指示されるケースも多く、請負契約書が間に合わない場面も多々あるでしょう。その結果として、トラブルが起こりやすくなり、工事請負契約書もないため、建設会社が工事費用を負担するケースも珍しくありません。
依頼主には、最初の工事請負契約書を交わす前に、追加変更工事でも工事請負契約書の交付が必要である旨を述べ、契約書に明記することが重要となります。
まとめ
建設業にとって工事請負契約書は、建設工事において重要な書類です。建設会社は工事請負契約書を作成し、依頼主の合意を得て適正に契約を締結しなければなりません。契約自体は、民法により口頭でも成立します。しかし、建設業法では工事請負契約書の交付を義務付けています。それは、1つの契約に多額の金銭を要することだけではなく、適正な建設や適正な支払いなどが必要であるためです。
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※本記事は2023年12月28日時点の法律に基づき執筆しております。