立石設計(京都府福知山市)は1991年の創業以来、地域密着型の設計事務所として、新築、リフォームを問わず、地元のニーズに幅広く対応してきた。扱う建物も共同住宅から専用住宅、店舗、オフィス、公共施設など多岐にわたる。順調に成長してきた同社では、2000年に有限会社として法人化し、さらに2002年には不動産事業部も設立。土地から建物までトータルにカバーできることが強みになっている。そんな同社が特に力を入れているのが、創業当時から手がけている注文住宅事業だ。2022年からANDPADを導入し、業務改善を進めることで、受注棟数の倍増を目指している。その取り組みの中心人物が同社の取締役部長の立石成人さんだ。「業務効率化を図ることで導入前より粗利が10%向上した」という。導入の経緯と現状の課題、これからの展望を聞いた。
立石さんが同社に入社したのは2016年のこと。当時、受発注管理にはシステムを部分的に取り入れている状態だった。そのため、表計算ソフトのフォーマットに数字を手打ちし、プリントアウトした紙を協力会社に郵送する、という方法をとっていた。「とにかく数字が見えないことがストレスでした。完工して、支出と入金が締まった段階でないと、どのくらいの粗利を得られたのかがわからない。そんな昔ながらのどんぶり勘定の状態を改善したいと考えていました」。
顧客情報の管理、協力会社との情報共有方法にも課題があったことから、現場から経営管理まで一元化でき、業務効率化できるシステムを本格的に検討し始めたという。
実行予算の“見える化”で会社全体の収支が把握できるように
工事管理や受発注管理のソフトを取り入れてみたものの、「それぞれの業務は連動しているため、工事管理だけ、受発注管理だけでは、意味がないと気付きました。それぞれのソフトに入力し直す手間がかかってしまう。そのうち社員も面倒になって、元の表計算ソフトのフォーマットに戻ってしまう。しばらくそんな試行錯誤が続きました」と立石さんは振り返る。
そんな時に知人から紹介されたのがANDPADだった。「当初は工程管理をメインに検討しましたが、施工管理・受発注・引合粗利管理をトータルにカバーしていることで、データがシームレスにつながっていく点にメリットを感じました。特に、実行予算が“見える化”できることが大きな魅力で、導入を決意しました」。
コロナ禍以降、物流が不安定になり、資材や設備機器などの値上がりも続いている。また、従来から現場における職人不足も解消するめどが立たない。家づくりの現場では、こうした要因から予算管理がこれまでになく厳しいものになっている。
大量生産できる分譲住宅であれば事前に資材や職人を確保しておくこともできる。しかし、同社が得意とする注文住宅の場合、標準仕様にとどまらず多種多様な選択肢が検討され、現場ごとの価格が予算に反映されるため、粗利が不透明になりがちだった。
「当社にとってANDPADを導入した最大のメリットは、現場ごとの粗利を正確に把握できるようになったことです」と立石さん。
建て主は予算に余裕がある人ばかりではない。同社のように地域全体をカバーする設計事務所では、住宅のローコスト化を求められる場面もしばしばあり、粗利は確保しつつ、ぎりぎりまで見積額を落とすことも求められる。「ANDPADを導入したことで、現場ごとの見積計算がしやすくなりました。また、これから着工する現場での粗利が精度高く算出されることで、会社全体における収支も把握できるようになったこともメリットだと感じます」。
どの案件でも着実に見込んだ粗利を積み上げていくことが可能になった同社。資材の値上げも影響したものの、前期の粗利率よりも10%も向上する見込みだ。これを弾みに、現状で年間50棟ほどの受注件数を近い将来に倍増したいと意気込んでいる。
社内外にも好影響 ANDPADとの二人三脚の業務改善
ANDPADの導入は、社内外にも良い影響を及ぼしているという。以前は、郵送されてくる請求書の受け取り、請求先への発送などに追われていた経理の担当者も、ANDPAD上でやりとりができることによって負担が大きく軽減したという。
また、事前に実行予算が明確になったことで、各案件の担当者も設計変更に対応しやすくなった。「ここまでなら粗利を確保できる、といった判断もしやすくなり、よりよい家づくりに取り組めると、モチベーションが上がっているようです」と立石さん。
協力会社からの反応も上々だ。以前はデータ共有をしていても、どの図面が正しいのか?と質問をされたり、紙での図面が間違いのもとになったりと、お互いにストレスになっていた部分がANDPADで解消された。
ただ、ここまで社内外に浸透させるまでには、相応の時間と努力も必要だったという。「誰しも、慣れないことは敬遠しがち。社内でも各自に声かけをして、少しずつANDPADを触るように進めていきました。協力会社に対しても、“うちはこれでいく”と宣言して、説明会を数回開いて粘り強くお願いすることで、今ではすべての現場で使ってもらえるようになりました」。
「ようやくスタート地点に立ったという実感が生まれました」という立石さん。これから着手したいのは、ANDPADによるOB顧客の管理だという。「まだまだANDPADの機能を生かしきれていないと感じる。できることは全部やって、会社の体制を整え、これからの不透明な時代に備えておきたい」。次世代も見据えながら、立石さんとANDPADとの二人三脚はこれからも続いていく。
※本記事は2023年6月30日発行「新建ハウジング」において掲載された記事の転載となります。