混在するツールによる非効率な作業
成瀬電気工事(株)の富山支店(以下、同支店)では、施工管理アプリ「ANDPAD」を導入し、図面管理から写真整理、工程管理まで幅広い業務改善を実現している。同支店にはANDPADの現場での使用感をフィードバックし照度測定機能などの開発に協力してきた実績もある。
同社では各支店の地域特性や、案件内容に応じた業務を展開している。同支店では改修工事が中心であり、金沢本店も同様の傾向にある。一方、名古屋支店や東京支店では新築案件が多い。
ANDPAD導入以前を振り返ると、同支店では工事写真の整理方法が統一されていない状況が続いていた。ベテラン技術者のなかには10年以上前から電子小黒板アプリを使用する人もいれば、表計算ソフトで独自のフォーマットを作成する人もいた。この「人それぞれ」の状況が個人レベルでは効率的に見えても、チームで現場を管理する際には大きな障壁となっていた。もちろん現場管理の中心となっていたのは「紙」だ。
図面管理では、複数の担当者が同じ現場を担当する際に紙の図面を持ち出してチェック作業。また、現場写真と図面をそれぞれ別々に管理していたため、後から情報を突き合わせる手間も発生していた。
アナログの壁が照度測定の負担に
電気工事とセットになるのが、さまざまな検査業務だ。特に照度測定は大きな負担となる。従来の方法では、測定者と記録係の2名体制が基本だ。測定者が数値を読み上げ、記録係が紙の用紙に書き込んでいく。測定ポイントが多い現場では、この作業だけで膨大な時間を要するうえに誤記入の問題も付きまとう。さらに、紙で記録した測定結果は清書が必要になる。顧客によって求められる書式が異なるため、案件ごとに異なるフォーマットで試験成績書を作成しなければならない。転記作業は単なる時間の浪費であるだけでなくミスのリスクも伴う。
そのようななかで2024年働き方改革関連法への対応が求められDX ツールを活用した対応に動き出すことになった。
決め手は現場に合った操作性
同支店がANDPAD導入を検討し始めたきっかけは、説明会に参加したことだという。また、取引先の製造業の顧客がANDPADを活用していることも後押しになった。
実は同社では同時期に別の類似ツールを導入し検討したという。しかし、改修工事が中心の同支店・金沢本店の業務内容には必ずしもマッチせず、定着には至らなかった。特に官庁案件における電子納品への対応が難しく、写真の差し替え操作も煩雑だったという。
対してANDPAD は図面管理と写真管理をセットで管理できるうえ、電子納品にも対応している。さらに、以前使用していた電子小黒板アプリと似た操作性を持つことから、「これなら現場に受け入れられるのではないか」という期待があったという。

図面と写真を一元化
ANDPAD導入後、最も大きな変化は図面と 写真の一元管理できる体制が整ったことだと評価する。この統合は、単なる利便性の向上だけではなく、情報伝達に新たな選択肢を加えることになった。 同支店では、「記録ピン」や「依頼」機能を活用して「ANDPAD図面」に登録された是正内容や残工事をチェックしている。ピンには色分け機能があり、作業の開始や完了状 況を視覚的に把握できる。例えば、ある箇所に赤いピンを立てること で「ここから作業開始」という合図になり、完了すればピンの色をグレーに変更するといった ルールで運用している。さらに図面上に手書きなどで指示を出す「メモ機能」を活用すること でより直感的に指示や管理者の意図が伝えられ るようになった。事務所にいながらでも現場の進捗状況を一目で確認でき指示が出せるため、現場に足を運ぶ回数が減ったという。大規模現場のように複数名で現場を管理する 際の効果は特に顕著だという。従来の電話による説明では曖昧な表現による誤解が生じやすい。しかしANDPADでは、図面上の該当箇所 にメモを残すことで、視覚的に正確な情報伝達が可能になった。現場にいる作業員も、スマートフォンやタブレットで同じ図面を見ながら作業ができるため、コミュニケーションエラーが大幅に減少したという。
同社が運用面で評価しているのは、パソコン、タブレット、スマートフォンのいずれで見ても同じ画面表示方法で操作できる点だという。このため、デバイスによって操作方法が異なることがなく、使い分けに戸惑いが生じるハレーションが少ないという。この統一性もツール定着の後押しとなっているのだろう。
業界共通の悩み「写真管理」を改善
従来の表計算ソフトによる写真整理では、写真の順番を入れ替えるだけでも大きな手間がかかった。セルのコピー& ペーストを繰り返すうちにレイアウトが崩れないよう細心の注意を払う必要もあった。ANDPADでは、ドラッグ& ドロップの直感的な操作で写真の並び替えができる。この点について「表計算ソフトよりも圧倒的に楽になった」と、現場からは高い評価を得ている。また、電子小黒板に書く文字を間違えた場合でも、修正しやすい仕様になっている点も好評だという。もちろん、他の電子小黒板アプリでもデジタルなので修正は簡単なのだが、「ほんの小さな使いやすさ」が全体で考えると業務効率を大きく向上させるのだという。
測定業務を効率化する
同社の大きな負担となっていた照度測定の最適化に向けて、「ANDPAD図面 性能検査」機能を活用するため、Bluetooth 連携が可能な測定器を導入した。これにより測定データを自動的に帳票に取り込めるようになった。
Bluetooth 連携により「数値を読み上げる」「紙に書く」という工程が不要になり、作業時間が大幅に短縮された。現在でも2名体制で実施しているが人手不足によって1名しか現場に行けない状況でも、測定業務が可能になったことは大きなメリットといえる。
2027年には水銀灯の製造、輸出入が禁止されることから、LED 化の案件は今後も増加が見込まれる。来るべきニーズに対応するための一助となることだろう。
自動化・可視化でチームを強化
同支店ではANDPADの工程表作成機能も高く評価している。従来は表計算ソフトで工程表を作成していたが、日付の入力に始まり細かい調整が必要となるため、手間と時間がかかる作業だった。ANDPADでは、作業項目と期日を入力するだけで自動的に工程表が生成される。しかも工程管理における重要なポイントとなるマイルストーンを工程表上に設定できるため、プロジェクト全体の進捗を把握しやすくなった。「いつまでに何を完了させなければならないか」がより明確になり、チーム全体で目標を共有できるようになった。
各案件の工程表を一覧表示すれば、誰がいつどの現場を担当しているかが可視化されるため人員管理にも活用する動きもあるという。従来では、一元管理が難しく「この日は誰が空いているか」「この現場には誰をアサインできるか」といった判断が口頭によるコミュニケーションが中心であったが、データに基づいて管理できる体制の構築が期待できるようになった。この取り組みが実現すれば地理的に近い金沢本店から人員を融通し合うことも可能かもしれない。
現時点では支店単位での活用にとどまっているが、全社展開されれば、さらに大きな効果が期待できるだろう。
「使ってみる姿勢」が進化を生む
同社の特徴的な取り組みとして挙げられるの が、ANDPADのすべての機能を実際に試して精通している点が挙げられる。実際に新しい ツールを導入しても、一部の機能しか触れない企業は少なくない。しかし同社は、自社の業務 を改善できる点がないかをANDPAD の機能か ら見つけ出し、改善を心掛けるマインドを持っ ている点が特徴としてある。
この姿勢が、照度測定機能や設備試験機能など、自社の業務に最適な使い方を発見することにつながった。ツールの可能性を最大限に引き出すには、まず使ってみなければ始まらない。その過程で見えてくる課題や改善点こそが真の業務効率化への道筋となる可能性がある。
現場浸透への課題と今後の展望
同支店では現在、現場を担当する技術者全員の活用には至っていない。案件の内容に応じて必要な機能を使い分けながら、徐々に利用者を広げている段階であるという。新しいツールへの抵抗感は、どの組織でも避けられない。「使えば便利だとわかる」という声がある一方で、「新しいことを覚えるのが面倒」という声があるのも事実だ。定着を進めることを焦らず、着実に利用者を増やしていく方針だという。また、メーカーのサポートなど外部の協力も予定しているようだ。
(電気と工事 2026年1月号 掲載の転載)


