2023年10月に開始されるインボイス制度や2023年12月の電子帳簿保存法の猶予期間終了、各種法令対応の期限が迫っている。建築業界についても同様で、少数精鋭で事業展開している地域工務店からはどのように法令に対応したら良いのかといった不安の声が高まっている。
そんな中、愛知県岡崎市で高性能住宅を提供するユートピア建設(山口雅弘社長)では、これら法改正開始後の業務負荷増加に対応するため、DXに向けたツール活用を始めた。ペーパーレス化をはじめとした効果、そして法令対応に対する意識などを、同社のDXに尽力した取締役の山口玲以子副社長と馬欠場美穂部長に訊いた。
コロナ禍がきっかけで始まったDXに向けた第一歩
2018年から積極的にZEHに取り組み始めたユートピア建設は、現在G2レベルを標準とした住宅を年間20棟供給しているZEHビルダーだ。2022年度平均UA値0.43、C値0.13と高気密・高断熱を実現している。山口副社長は「ヒートショックは住宅性能を上げることで防ぐことができる。家は一度建てると建て替えることが難しいので、最初にお金をかけて住宅性能を上げておくことが重要だ」と熱い。
現在社員数10名という少数精鋭で高性能住宅を手掛けている同社だが、2021年5月より満を持して業務のデジタル化へと踏み切った。最初に取り入れたのは建築業界向けにクラウド型建設プロジェクト管理サービスの開発・販売を行うアンドパッドが提供する『ANDPAD』の施工管理システムだ。馬欠場部長は「工事の進捗中には、図面一つでも変更があればFAXを送る。しかし、現場に届いていない、工期のズレや工程の変更も各社に連絡して回らねばならない、といった現場監督への業務負担が大きかった。また、2週間に1度協力会社と業者会を開催していたが、コロナ禍で難しくなった。そこで、これらの課題を解消するためにツールの導入を検討し始めた」と話した。
導入後には悩みの種だった工程管理もアプリでの情報共有によってスムーズになった。さらに、同社が特に活用している機能が案件管理機能だ。中でもマップ機能の使い勝手には特に満足度が高い。OB宅が住所ごとに地図上にピンで表示されるため場所がわかりやすくなり、現場へすぐ向かうことができるようになった。そのほか、馬欠場部長がOB管理において便利さを実感している機能が資料・写真管理機能だ。「過去の図面や資料が案件ごとに保存されており、お施主様との話がスムーズにできるようになった。さらに、リフォームの履歴や写真なども管理可能なのでアフター管理がとても楽になった」と例示した。
発注DXで経理業務の手間を減らし正確性も向上
また、同社がDXを推進しているのは施工管理だけに留まらない。インボイス制度と電子帳簿保存法への対策として、発注業務のデジタル化を実施。これには『ANDPAD受発注』を採用し、建設業法へも合わせて対応を行った。昨年12月より本格的に運用開始。現在では協力会社の9割が電子受発注に登録・利用しており、残り1割の登録に向けて動いている状況だ。社内経理業務の効率化にも繋がっており、馬欠場部長は「これまでは協力会社の見積書と請求書の値段が違った場合、その原因を解明するために担当者が取引先ごとに確認していた。しかし、『ANDPAD受発注』導入後は、やりとりの履歴を把握でき、見積・発注から請求までのデータがシステム上で、一気通貫で管理されるため確認の手間が省けた」と笑顔を見せた。
肝心の法令対応への意識について山口副社長は「協力会社にも基本的に適格請求書発行事業者の登録をしてもらうようお伝えしている。既に多数の協力会社が登録をしてくれている」と自信を見せた。また、経理担当からは「ペーパーワークだと登録事業者番号を都度確認しなければならないが、『ANDPAD』を使うことで請求書にすでに協力会社が入力した番号が入り、確認の手間がない。記入漏れがあるのに支払ってしまう、という後戻りできないミスの予防がシステムで担保されており、安心感があるのでありがたい」と嬉しい声があがっている。
受発注などの事務作業も効率化できている。
業務段取りの仕組み化で進捗管理が進化
受発注業務のデジタル化と同時に、業務フローのマニュアル化を進めるため『ANDPAD引合粗利管理』のワークフロー機能も活用している。この機能を活用することで、問い合わせ後の営業フロー、契約後の社内業務の段取りをANDPAD上で仕組化し、担当者の情報入力の抜け漏れを防ぐことができるようになった。「『ANDPAD』を利用することで状況が可視化され、案件ごとの進捗状況が明確になり、課題を早期に発見できるようになった」と手応えを感じている。今後はさらに機能の活用範囲を増やし、各種書類のテンプレート化など、さらなる業務効率化に向けた運用に向けて目標を立てている。
DXの実現により本来やるべき仕事に取り組める体制へ
DXの推進に踏み切ったことで業務効率化を実現した結果、本来やるべき仕事ができるようになった同社。従業員を増やさずとも、工数が多くこれまで実施が難しかった全棟気密検査を実現した。業務の生産性を上げることで、高気密・高断熱な住宅を少数精鋭で提供でき、そして各種法令対応への仕組みづくりも整いつつある。そこには「DX実現に向けて踏み切る」という英断を下し、根気強く社内に浸透させていった山口副社長、馬欠場部長の力量に加えて、その下支えをしている『ANDPAD』の功績も大きい。
施工管理から受発注、引合粗利管理に加えて検査まで、建設業に関わるあらゆる業務改善をサポートする『ANDPAD』。2023年10月のインボイス制度開始に向けた、対応機能も鋭意開発中だという。働き方改革や人員不足、法令対応などさまざまな悩みを抱える工務店の懸念を一掃できるツールとなっているのではないだろうか。
※本記事は2023年5月31日発行「月刊スマートハウス ZEH MASTER」において掲載された記事の転載となります。