東京ガスリノベーションの暮らしパートナー事業部は、2020年からクラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を活用して業務改善を図っている。ANDPADを用いて現場の状況を関係者間で共有し、よりスムーズに作業を進められるようにしたほか、デジタルサイン機能やチャット機能といった新たな機能の活用も始めた。DX(デジタルトランスフォーメーション)化を推し進め、業務の効率化や負荷軽減、リスク低減につなげている。
同事業部は、集合住宅をメインターゲットに、ガス機器を中心とする設備更新と、水回り住設機器の交換に付随するリフォームを手掛けている。昨年度の施工実績は約1万2500件。同事業部開発営業部営業推進グループの渡邉学志氏は、「365日受け付け可能で、東京ガスグループで培った施工・メンテナンスの技術力を生かし、顧客のさまざまなニーズに対応している」と説明した。
現場の情報を関係者で共有するため、写真撮影の機会が多い。ANDPAD採用前は、現場を撮影したデジカメの写真データを、事務所に戻ってからパソコンに移して関係者に送信していた。担当者が直帰するケースでは状況確認が翌日以降になり、確認不足が判明した場合は再度現場に行く必要があるなど非効率だった。さらに作業の進ちょくは表計算ソフトで管理していたが、入力ミスや書類紛失のリスクがあった。こうした課題を解決するためANDPADを採用した。現在、同事業部の92人が活用。施工作業を行う協力会社には同社がiPadを貸し出し、43人が活用している。
同事業部開発営業部の遠藤哲也営業推進グループマネージャー(GM)は、「写真データを現場でANDPADのクラウドに上げることで、事務所がそれをすぐに確認して『この部分の高さを測ってほしい』など、リアルタイムで指示を出せるようになった」と大幅な効率化を実現できたと話す。
同事業部首都圏営業部の鈴木真中央営業GMは、「(デジタルツールの活用が苦手な)年配の作業者もANDPADで簡単に写真を共有できるようになり、情報共有レベルの均一化を図ることができたことが非常に良かった」と指摘した。
ANDPADのクラウド容量は標準でも非常に大きい。同事業部開発営業部営業推進グループの大塚應彦チームリーダーは、「これまでの1現場当たりの平均的な保存データ容量から10年以上は活用できることが分かり、安心した」と話す。
同事業部首都圏営業部の松井昭彦施工支援GMは、所要時間の差について指摘。「賃貸物件の管理会社には機器交換作業の終了後に写真付きの作業完了報告書を提出しているが、協力会社が事務所に戻らずに現場を移動する場合もあり、報告書の提出が遅れることもあった。ANDPADの活用により、現場から当社経由で作業完了報告を送れるようになり、管理会社にスムーズに報告できるようになった。(事務所に戻る必要性をなくし)協力会社の働き方改革にもつながっている」と話す。
同社は21年11月~22年7月までの9カ月間でANDPADの導入効果の検証を行った。ANDPADが関わる業務では前年同期比で498時間の削減ができたと算出。給湯器の納期遅延が生じる中でも、ANDPADの導入により、作業の効率化が進み、残業時間を最小限に抑えることに成功したという。
昨年からは、ANDPAD上で作成した報告書に手書きのサインを入力できるデジタルサイン機能の活用も開始した。従来は、機器交換などの作業完了後に顧客から書類にサインをもらっていたが、これをデジタル化し、書類紛失のリスクを解消したほか、書類の出力に伴うコスト(紙・インク代)を削減できたとしている。
今年からチャット機能の活用も始めた。従来、現場作業の注意事項などの説明は、関係者を一堂に集めて口頭で行っていたが、チャット機能を使えば一斉に周知でき、閲覧の有無も確認できる。
現在、施工予定管理機能(ANDPADボード)の試験使用を行っており、10月から全拠点で活用する方針。これにより各拠点に配置している施工予定確認用モニターを廃止できる。協力会社が施工予定確認のためだけに事務所に来所する必要がなくなり、施工品質の向上につながると想定している。また、施工関係書類の完全ペーパーレス化を目指しており、施工完了報告書以外にも施工委託書のペーパーレス化を計画している。
さらに、販売管理システムとの連携も視野に入れている。「将来的には販売管理システムから自動的に現場情報をANDPADに取り込み、ハンド入力を極力減らすことを考えている」(遠藤GM)という。ANDPADを活用したさらなる業務改善を追求していく。
ガスエネルギー新聞(2024年9月23日)掲載の転載