2010年に千葉県八千代市で創業した誠真工業様は、主に一都三県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の一戸建て、ビル、マンションなど建物全般の防水改修工事をメインに手掛ける。特に大規模修繕工事を得意とし、今では内装のリニューアルまで幅を広げた。25年以上、この業界で働いてきた同社代表取締役の宮本 貴嗣様には「人が成長してこそ企業も成長する」という考えがあり、経営の軸として人材育成にも力を入れている。
以前は防水工事を単体で受注していたが、現在は外壁塗装などの付帯工事も一括で請け負うようになった。その理由は、単体受注だと工事全般に対して意見が言えず、改善できる点があっても限られた予算・範囲内で工事せざるを得ないという宮本様の忸怩たる思いがあったからだ。方針を転換し、一括受注で自分たちが全責任を負う一方で、コンサルティングも含めてきちんと意見を反映できる工事体制を築き上げてきた。今ではゼネコンなどの元請企業から全幅の信頼を置かれ、防水改修工事全般を任せてもらえるようになった。
防水工事の一括受注で工程が複雑化、スマホで使えるソフト導入を決めた
一般的に漏水といえば、一軒家の雨漏りなどを思い浮かべるかもしれないが、実はそうしたケースはそれほど多くない。むしろ、よくあるのは高層の大型ビルなどという。そこには入居するテナント、不動産会社など利害関係者が複雑に絡む。防水改修工事は、もし失敗すれば建物に大きなダメージを与えてしまう。一歩間違えれば、訴訟沙汰に発展する恐れもあるシビアな工事なのだ。
そのため、修繕の際には設計業務がとても重要だが、「設計事務所の一級建築士でさえ設計を間違えることがある」と宮本様は明かす。防水工事単体で受注していたころは、設計がおかしいと感じても工事全般に口出しできなかった。そこで防水改修全般を請け負う受注体系に変え、自分たちが全責任を負いつつ意見できる体制を作った。
単体受注なら工程は比較的単純で管理も容易だ。だが、一括受注するようになると協力会社も増え、それに伴い職種も職人も多様になり工程管理が複雑化、職人によっては現場写真を紛失したり、撮影を忘れたりするといった問題も増えた。ANDPAD導入前は、現場写真は一連の工事が終わってから集約するスタイルだったため、後から撮影不足に気づいた時は、時すでに遅しということもあった。
問題を解消するため、それなりのコストをかけて現場管理のソフトを導入したが、パソコン起動で手間がかかるといった理由等から結果的に誰も使わず失敗に終わった。経営と現場との意識のギャップが大きかったこともあり、ソフト利用はいったん中断した。とはいえ、企業の成長に伴い受注も職人も数がどんどん増えてくる。アナログな管理では負担が増す一方だったため、同じ轍を踏まないよう、今度はスマートフォンで手軽に扱えるソフトを探した。ある時、自社開発を検討しソフトメーカーなどに相談してみたが、想像以上の金額を提示され断念。その後も色々と調べる中でANDPADの導入事例の記事を読み、さっそく問い合わせ・導入を決めた。
社員はもちろん、協力会社も全員集めて「今後はANDPADを活用していく。ただし、現場の監視やマイナス面のピックアップという観点ではなく、クライアントや元請にもIDを渡して工事のプロセスを見て納得し評価し易くするため」という旨を伝えた。またANDPAD内のチャット機能を使えば、みんなで現場の良かった点について評価を出せる、若手社員が外部の関係者と打ち合わせする際の技術を上げられるという狙いもあった。
業務の切り分けで残業が減り、プロセスの明文化でミスを防止
写真撮影は、例えばマンションの大規模修繕工事で平均1000枚程度、多い時で2000枚程度になる。その写真を以前は工事終了後にまとめて受け取っていた。そこから一気に竣工図書に仕上げる作業が非常に大変で、現場管理者の残業が増えるなど負担が大きかった。
プロジェクトは大小合わせて毎月15〜20件が同時進行している。大規模修繕工事の工期は平均3カ月、その間に3日から1週間程度の短工期の仕事が入ってくる。ロングスパンの大規模修繕工事は情報整理もしやすいが、短工期の工事が途中に入ってくると工程管理が一気に煩雑になる。
ANDPAD導入に伴い、バックオフィスに現場管理アシスタントを置くことにした。現場管理者が帰社してからのデスクワークや官庁への届け出など、夜の二重業務を削減するのが目的だ。ANDPADならリアルタイムに写真をアップロードできるため、アシスタントが日中、そうした業務を順次処理できる。写真が不足していれば、チャットでさっとメッセージを送り、現場ですぐ対応してもらえるのも利点だ。
ANDPADを使うことによりリアルタイムに情報が更新でき、短工期の工程管理がしやすくなって残業時間も圧倒的に減った。実際、以前は宮本様が帰社後に事務作業するケースも多かった。現場が17時に終わり、18時から19時ごろに帰社。そこから写真を整理したり、書類をメールしたりすると21時とか22時ごろになっていた。現在は情報がANDPAD内で全て整理されているので、手の空いている社員に業務を引き継いで勤務時間内に作業が終わるようになった。こうしてバックオフィスと現場、社長と社員のするべき業務が切り分けられたという点で大きな効果を発揮した。
さらに、若手のコミュニケーション能力アップにも寄与した。特に現場管理は、職人やクライアントなど外部関係者との対人コミュニケーションが最も必要だ。スマホでコミュニケーションするのが当たり前の若い世代にとって、話すのは苦手でも文章なら上手く表現できる者も多い。ちょっと怖そうな、直接話しにくそうな職人相手でもチャットなら気軽に伝えられる。そのため、情報伝達が円滑に進むようになった。
しかも、やりとりを明文化していれば責任の所在も分かりやすい。人間だから何かしらミスは発生する。その時、「言った・言わない」になり、以前であればまず聞き取り調査から始めていた。チャットで残しておけば言い間違いや伝え漏れもなく、上司も見ているから途中でフォローもできる。それができていなければ、現場管理者だけでなく上司にも責任があるという判断を下せる。事実があいまいなまま特定の悪者を作らないという意味で、プロセスをオープンに進めるメリットがあるという訳だ。
専門学校、VR化、学部新設…尽きない将来の展望と実現を支えるDX
誠真工業様はDX化を通じて、建設業界の仕組みそのものを変えようとしている。例えば美容師などは専門学校があるが、建設業の専門工事29業種にはそれがない。市場規模は60兆円超で世界最大級なのに、技術を学べる場所がなく、就職した後に現場で学ぶしかないのだ。そこに宮本様はずっと違和感を抱いていたという。
そこで宮本様は、「一般社団法人建築防水技術研修センター」という防水工事を専門に学べる場を立ち上げた。いずれ学校法人化を目指している。2018年に立ち上げ、国内の主流防水材メーカーが賛助会員として加わり、業界内OJTという形で様々な企業の若手を受け入れて人材育成をしている。これが誠真工業様が、元請企業から信頼を置かれている一因にもなっている。
宮本様は、建築業界にDXを浸透させるキーワードの一つに「VR化」を据え、将来的に職人の手の動きやスピード、目線といったものをVR化、大学生がそれを使い技術を体感しながら学べる学部を設立するという展望も描いている。これには、人材不足を補う魅力や価値を発信するという意味合いもある。専門学校にせよ、大学にせよ、最終的には就職活動をすることになる。専門工事に関する専門知識の裏付けがあれば、全国に対して就職のあっせんができるようになる。
すでに工科大学や建築専門学校はあるが、これらは基本的にエンジニア養成が目的だ。たしかにエンジニアは必要だが、400万人とされる建設従事者の割合としては現場の職人の方が多い。職人になるためのプロセスを体系化できれば業界の改革につながり、相乗効果として人材育成がビジネスとして成り立つという見込みもある。
現場監督については、攻略本を独自に作った。ゲーム攻略のような感覚で読めるものにし、内容を実践してお金に変えていくまでの一つのツールだ。内容をどう捉え、それを上司などにどうぶつけて試してみるか。そうした試行錯誤をすれば、若手の成長スピードもより一層と早くなると宮本様は考えている。社内育成用で作ったが、SNSで紹介したところ問い合わせが殺到、いずれ第二弾を作る際のフィードバックが欲しいという思いもあり、希望者には無料配布している。
クライアントや元請は現場監督や職人に対して、仕事を丁寧に仕上げるといった物理的なことはもちろんだが、それよりも内面的なものを重視する。丁寧な説明、聞かれたときに分かりやすい言葉で変換するといった工夫をすることで、リピート率がより高くなる。人間力、キャラを磨くのもビジネスの一環であり、そのヒントを攻略本に記しているという。
それぞれが人間的に成長していくことで会社としての信頼が得られ、結果的に業績もアップするのはすでに宮本様自身が体験してきた。「今後も業務効率化や人材育成につながるもの、特にDXに関するものは何でも取り入れていきたい」と宮本様は意気込む。今後、誠真工業様を中心にどのような人材が育ち、建設業界を変えていくのか要注目だ。